ヴェルト・マギーア 星の涙 ACT.2

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俺は川辺の直ぐ近くに座り込んで、夜空に浮かぶ星たちを映している水面を眺めていた。

「…………ヘレナ」
 
そして俺は死なせてしまった恋人の名前を口にして膝に顔を埋めた。

「俺は……どうしたら良いんだろうな?」
 
そう小さく呟いて目を細める。

そしてあの時の記憶が脳裏を過ぎって、俺は拳に力を込めた。
 
ヘレナは俺のせいで死んだ。

俺が彼女を助けに行ったせいで死なせてしまった。

「ヘレナよ。その者を助けたくば、お前は自害しろ」

「…………はい」

ヘレナは奴隷として体に主の名字が刻まれていた。

だからヘレナはその命令に逆らう事が出来なかったんだ。

「……やめろ! ヘレナやめろ!!」
 
俺は数人の男たちに体を拘束されながら、必死に彼女に手を伸ばした。

しかしヘレナは投げてよこされた短剣の柄を両手で握ると、切っ先を自分の胸元へと押し当てた。

「……っ……」
 
彼女の体は酷く震えていて、短剣の切っ先も小刻みに震え行き先を彷徨っていた。

しかし最後に主がもう一度言う。

「ヘレナ。自害しろ」
 
その一言によって行き先を彷徨っていた短剣の切っ先は、狙いを定めるとピタリと動きを止めた。
 
その光景に焦った俺は、自分の体を拘束していた男たちを殴り飛ばした。

そして彼女に向かって走り出し手を伸ばした時だった。

「……アル……。あなたは……生きてね」

「ヘレナ!!!」
 
彼女は最後に一滴の涙を流すと、そのまま胸元に短剣を突き刺したんだ。

「……っ」
 
その後の事はよく覚えていない。

気がついたら俺は、ヘレナの主だった奴も含めその場に居た全員を皆殺しにしていた。

剣の刀身には真っ赤な血がベッタリと付き、自分の体にも返り血が付いていた事に気がついた俺は、初めて自分が怖いと思った。

ここ最近、その時の記憶を夢で見ていた。

きっかけはオフィーリアを目の前で失ったブラッドの姿を見てからだ。

あの時、俺はブラッドの姿を自分に重ねていていた。

胸が苦しくなって、息が荒くなってきて、昔に鎮めははずの感情が蘇ってきそうで、それが怖かった俺はレーツェルの側から離れていた。