ヴェルト・マギーア 星の涙 ACT.2

「お、お父様……?」

「俺は悪くない……悪くない……悪くない……悪くない……」
 
父はまるで自分にそう言い聞かせるように、その言葉を繰り返し言っていた。

そんな父を恐ろしく思った私は、何とか立ち上がって急いで自分の部屋に戻ろうとした。
 
しかしそんな私の手を父は乱暴に掴むと思い切り後ろに引っ張った。

「――っ!」
 
そして振り返った瞬間、父が振り下ろしたナイフが私の右目を斬りつけたのだった。

✭ ✭ ✭

「っ!」
 
目を覚ますと私は自分のベッドの中にいた。

「……もしかして……夢?」
 
そう思ってゆっくりと体を起き上がらせた時、右目に映る世界が真っ暗だった事に気がついた。

包帯も丁寧に巻かれていた事に気がついた私は、自分の手が震えている事に気がついた。

「……うぅ……」
 
私は父が憎かった。

先に死んでしまった母が憎かった。

ここに居ない兄が憎かった。

何も知らない、今頃笑って過ごせている弟が憎かった。

父にあんな手紙を出した子が憎かった。

街で私たちの悪い噂を流した人々が憎かった。

明日が来る事が……憎かった。

もう全ての事がこの時の私にとっては憎く感じられた。
 
どうしたらこの苦しみから開放されるのだろうか? 

どうすれば自由に生きる事が出来のだろうか? 

どうすれば幸せになれるのだろうか? 
 
そんな事ばかり毎日考えていた時、私は噂で【奴隷区】と呼ばれる場所がある事を知った。

そこは奴隷たちを売り買いする場所と言われ、人間族以外にも他の多種族たちの奴隷たちも売り買いされていると聞いた。

父の毎日からの虐待で精神的にもまいっていた私は、そこへ行けば今の生活から脱出出来るかもしれないと思った。

父から逃げる事が出来るのかもしれないと思った。
 
そう思った私は父が眠った事を確認してから、肩先くらいまであった髪を果物ナイフを使ってバッサリと切り捨てた。

その後は自分が今まで着ていたワンピースやドレスも破り捨て、私はこっそりと家を抜け出した。
 
こんな生活とさよなら出来るなら、奴隷だって何だってなってやると、この時の私は思っていた。

だから私は迷う事なく、自分の意思で奴隷区に行く事を決めたんだ。