ヴェルト・マギーア 星の涙 ACT.2

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クラウン様と初めて出会ったのはあの時だった。

燃え盛る奴隷区から私たち三人の事を助けてくれた時だった。
 
奴隷区に連れて来られるまでの私は、その辺に居る子供と何一つ変わらない、ごく普通の家に生まれた女だった。
 
父は学校で教師をしていて、母は街で花屋を営んでいた。

家族は父母以外にも、三つ歳が離れた兄が一人と、まだ生まれたばかりの弟が一人居た。
 
あの頃の私は今の私と比べれば、だいぶおしとやかで大人しい子だったと思う。

好きな物は花で、得意な事は裁縫だった。でも料理だけは苦手だった。
 
よく兄が喧嘩をして帰って来る事が多かったから、破れた兄の服を塗ってあげたり、まだ幼い弟にお人形を作ってあげたりもしていた。
 
母が花屋を営んでいた影響もあってか、お店に並べられていた花の名前や花言葉は全部覚えていた。

自分の部屋にも植物図鑑や花言葉が書かれた図鑑が、数多く本棚に収められていた事を今でも覚えている。
 
私は幸せだった。

家族と一緒に過ごせた時間が、他の何よりも私にとっての幸福だった。

しかし……幸せはそう長くは続かなかった。

「この人殺し!」
 
そんな風に父が呼ばれたのが、私が九歳の誕生日を迎えてから間もないことだった。
 
なぜ父が【人殺し】なんて呼ばれるようになったのか、それは父が虐められていた生徒を見て見ぬ振りをした事が原因だった。
 
虐められていた子は私と同い年の女の子で、父が受け持っていたクラスの子の一人だった。

その子はクラスの中で密かに虐めを受けていて、その事を父は知らなかった。
 
しかしその女の子は自ら命を絶つ一日前、父に手紙を出していた。

「私はクラスで虐めを受けています。先生助けて下さい」
 
その手紙は私も目にした事があった。

文面は酷く綴られていて、最初目にした時は所々なんて書いてあるのか分からなかった。

今思えばその子はきっと震える体を必死に抑えながら、最後の勇気を振り絞って父に助けを求めようとしたんだと思う。
 
もしあの頃の私が今のような私だったら、私は絶対にその子を助けていたと思う。

周りからどんな目で見られようとも、誰かに助けを求められたら助けるのは当然だ。
 
だから父もその子の事を助けてくれるんだと思っていた。

しかし父は私から手紙を受け取ると、手紙に書かれた文面を軽く目で追っただけで、その後は手紙をクシャクシャにすると暖炉の中へと投げ捨てた。