「クラウン様……」

もしかしてまだ体の傷が癒えていないのだろうか? 

それともまだ眠っておられるのか? 

扉を開けてみないことには分からない事だが、勝手に扉を開ける真似なんて私には出来ない。
 
しかしブラッドによって負わされた傷は、少しずつではあるが良くはなってきているはず。

あの時に見た傷の具合に比べたら……。

✩ ✩ ✩
 
今から二ヶ月前――
 
クラウン様は体中を血まみれにしながら、私たちのところへと帰って来た。

私を含めるアルファとガンマは、そんなクラウン様の姿に唖然としていた。
 
あのクラウン様が血まみれになった姿で帰って来るなんて、誰もが想像していなかったからだ。

「クラウン様!!!」
 
私は直ぐにクラウン様の側に駆けよって治癒魔法を掛け始める。

「はあ……っ……すま……ないね。…………ベータ」

「とんでもありません! これが私の役目ですから」
 
その言葉にクラウン様は苦笑する。
 
私はアルファとガンマと違って、戦う事よりも傷を癒やす方が得意だった。

そんな風にクラウン様によって体を作り変えられたせいでもあるが、そう願ったのは他の誰でもない私自身だった。
 
だからある程度の傷なら直ぐに治癒することが出来る。

しかし私の力は万能ではない。

傷はある程度癒やす事は出来るが、完全に完治させることは出来ない。

「クラウン様……?!」
 
ブラッドに気絶されて目覚めた時には、私はガンマによって既にここへと運ばれていた。

本当だったら、今直ぐにでもクラウン様のところへ戻って応戦したかった。しかしガンマが。

「おめぇが行ったところで、今のあいつに勝てるわけねぇだろ。行ったところで、クラウン様の足手まといになるだけだぁ」

「……っ」
 
ガンマのその言葉に私は唇を噛んだ。

それは自分でも分かっていたからだ。

今の私が行っても何の力にもなれないって。
 
だから私は少し遅れて戻って来たアルファやガンマと一緒に、クラウン様の帰りを待っていた。