部屋の中から昇ってくる朝日を見上げた私は、腰まである長い青髪を青紫色のリボンで束ねる為に鏡の前に立った。

そして手の中にあるリボンを見下ろして目を細めた。

小さい頃にクラウン様から頂いたこのリボンは、私にとって一番の宝物だった。

あの人に養子として迎え入れられたその日に、初めてプレゼントして貰ったんだ。

私は鏡に向き直ると長い髪を束ね、右目を隠している前髪を少し持ち上げた。

すると鏡に映る右目には、刃物で斬りつけられた跡のような物が残っていた。

その傷跡を指先で上からそっとなぞった私は前髪を元に戻す。

そしてベッドの上に用意してあった新しい服に着替えから部屋を出た。

✩ ✩ ✩

真っ直ぐ続く廊下の角を左に曲がると、目の前には真っ暗な世界が広がっていた。

しかし私は変わらず、真っ暗な世界へとどんどん足を踏み込んで行った。
 
今更こんな暗闇に怖がることなんてない。

だって私はこの暗闇よりも、もっと深い闇を知っているのだから。
 
歩き続ける先に灯りと言う物は存在しない。

それは前にクラウン様自身が、【光は僕にとって眩しい物なんだ。だから必要ない】と言っていたので、クラウン様の部屋へと続くこの道に灯りは存在していない。
 
少し歩きにくいと思うかもしれないがもう慣れてしまった。

だから今更灯りなんて物は必要ない。
 
真っ暗な廊下を歩き続けると、私の目の前に真っ黒な扉が姿を現した。

私はその前に仁王立ち、ゆっくりと深呼吸してから軽く扉をノックした。

「おはようございます、クラウン様。お体の調子はどうでしょうか?」
 
扉の向こうに居るはずのクラウン様に私はそう呼びかける。

しかし中から返事が返ってくる事はない。

これでもう何日目になるだろうか?