「……そうかい。そんじゃまあ、せいぜい頑張れや」
 
研究施設に戻っていくガンマの背中を見届けた僕は、真っ直ぐ青空を見上げた。

シエル様を外に出す事が出来れば、あの人は飛んで逃げる事が出来る。

だから僕はそれまで時間稼ぎが出来ればいいと思っている。
 
僕はもう一度強い覚悟を持ってから、研究施設に向かって歩き出した。
 
それから間もなくして、本当にブラッドさんはオフィーリアさんを助けに来た。

前よりもパワーアップしてやってきた彼の姿は、僕が理想とする姿その物だった。
 
きっと彼なら、オフィーリアさんを助け出す事が出来る。

そう僕は信じていた。

でもクラウン様はオフィーリアさんを殺して帰って来てしまった。
 
全身血まみれになって星の涙の欠片を握りしめながら、ベータの治療を受けているクラウン様の姿は、もう僕の目にはただの強欲の化け物にしか映らなかった。
 
だからもう僕は迷わない。

今目の前に居る彼女を守る事が出来るなら、この命なんて……要らない。
 
僕は目の前で悲しそうに瞳を揺らしている彼女の手を取って、そのまま自分の方へと体を引き寄せた。

「……アルファ?」
 
じっと彼女の顔を覗き込んで、そっと彼女の前髪を払った。

「僕は……君が君じゃなくなるのは嫌ですよ。君が居なくなるのは、何よりも悲しいんだ」

僕の言葉にシエル様は目を丸くした。

「君の側に居ると心が落ち着いて、君の笑顔を見ていると僕も自然と笑顔になれた。だから僕は初めて会った時にはもう、君のことを守りたいと思っていたのかもしれない」

「あ、アルファ? 一体何を言って?」
 
彼女は頬を少し赤らめながら尋ねてくる。

しかし僕はそんなことお構いなしに、彼女の耳元に口を近づけてそっと言う。

「だから、シエル。もし君が嫌だと思ったら、迷わず僕の名前を呼んでほしい」

「アルファの名前を?」

「そうですよ」
 
本当は命の恩人であるクラウン様を裏切りたくない。

僕の事を息子だと言ってくれた、僕にとって本当の父親みたいだったあの人を……裏切りたくない。