「そんでお前はクラウン様を裏切って、何がしてぇんだ?」

「……シエル様を……開放してあげたい」

「あの嬢ちゃんをか? 何でまたぁ?」

「……愛しているから」
 
僕のその言葉にガンマは目を瞬かせた。

そして深々と息を吐くと僕に聞いてくる。

「お前……悪いもんでも食ったか?」

「食ってないよ! 何?! 僕変なこと言った?!」

「いんや……変な事は言ってねぇさ。ただお前から、そんな言葉が出てくるなんて、微塵も思っていなかったからよぉ」

「……そうかよ」
 
確かに昔の僕を知っているガンマからしたら、そう思うのは当然なのかもしれない。

でも僕にとってシエル様は……愛しい存在なんだよ。

「愛しているから開放してやりたい……ねぇ。別に良いじゃねぇか?」

「えっ……」
 
ガンマは大木に立て掛けた大剣を背負うと、研究施設に向かって歩き出した。

「お前にも人を愛する気持ちってぇもんを、よくやく知る事が出来たんだ。だったら俺はそれを否定するこたぁ出来ねぇさ」

「……ガンマ」

「それにあの人は本当に変わっちまったぁ。最初はあの人に恩返しがしたくて始めた事だったが、今じゃ何の為にこんな事をしているのかって、俺自身も分かんなくなっていたぁところだ」
 
ガンマも僕と同じくクラウン様に恩返しがしたくて命令に従っていた。

でもきっと僕たちの中では誰よりも先に分かっていたのかもしれない。

あの人が今やっている事は、誰も幸せになれるような事じゃないって。

「だがぁ……ベータはあの通りあの人にご執心だ。あいつを止めない限り、嬢ちゃんを連れて逃げるのは無理だぜ」

「……分かってる。だから僕は、ベータとも戦う覚悟は出来ている」
 
ベータは僕たちの中で誰よりも、クラウン様に心から忠誠を誓っている。

誰よりもクラウン様に恩返しがしたいと思っている子だ。

本当はそんなベータの思いを踏みにじるような事はしたくない。
 
でも僕はクラウン様よりも、シエル様の方を選ぶよ。
 
これが僕にとって一番傷つくことのない選択だって思っているから。