彼女は床に足を付くと、こちらへと振り返る。

そんな彼女の姿を見て、僕は唇を噛みながら言葉を続けた。

「もし……クラウン様が己の欲望のために、シエル様をシエル様じゃない存在として仕立てあげようとしたら、あなたはどうしますか?」
 
僕の質問にシエル様は目を瞬かせた。
 
当然の反応だ。

きっと何の事だろと思ったに違いない。
 
こんな質問して良いはずがないって事は、充分に分かっているつもりだ。

でももしシエル様が、一瞬でも嫌だと思ったら僕はあなたを――

「う〜ん……別に良いかな」

「……えっ」
 
するとシエル様は両膝を抱えるとその場に軽く浮いた。

そして辛そうに表情を歪めた。

「だって最初から【私】って言う存在は、あってもなくても良かったかもしれないんだよ? それに私は昔の記憶がない、きっと私が私じゃなくなっても、誰も悲しまないよ。……きっと、パパだって」

「……っ」
 
クラウン様は言葉ではシエル様の事を【愛している】とは言っている。

でも本当はシエル様の事なんて、ただの都合の良い駒でしか見ていない。

きっと僕たちの事だってそうだ。

「私たちは魔剣でもあり一人の人間でもあるんです! ただ良いように利用されるだけの人形ではありません。そう……クラウンに良いように利用されているあなたとは違います!」
 
あの時のレーツェルさんの言葉が脳裏を過ぎった。

まさにその言葉は僕にとっては図星だった。
 
あんな人に言われなくても分かっていたんだ。

今のクラウン様は僕たちの事を、都合の良い駒同然に扱っているって。

「ねえ……ガンマ。僕決めたんだ」

「んあ? 一体何をだよぉ?」