ヴェルト・マギーア 星の涙 ACT.2

「……護衛? 彼女?」
 
それは一体誰の事を言っているんだ? 

彼女と言ったら僕の中では、ベータの姿しか思い浮かばない。

でもベータは誰かに守られる事を望む子じゃない。だとしたら一体誰を?

「ほら、おいで」
 
クラウン様のその一言で、目の前の暗闇の中から、こちらに向かって歩いて来る足音が聞こえた。

そして僕は目の前に姿を現した彼女を見て目を見張った。
 
肩先で内巻きにされた金髪の髪に、酷く怯えたように揺れる緑色の瞳、そしてとても見覚えのある可愛い顔立ち。

「……セシル?」
 
僕は小さく彼女の名前を呟いた。
 
どうして彼女がここに居るんだ? だってクラウン様はセシルを殺したって……。

「違うよ、アルファ。確かに見た目と魂は、君の言った通りの物を使っている。でも彼女は俺の娘だ」

「……は?」
 
見た目と魂を使っているってどういう意味だ? 

今僕の目の前に居るのは、確かにセシルだ。

でもクラウン様は違うと言った。

僕の娘だって言った。

「この子の名前はシエル。僕にとって大切な娘であって、僕の願いを叶えてくれる器さ」

「…………シエル」
 
その名前を呟いたと同時に、僕の頬に一滴の涙が伝った。

「あのね、私……大きくなったらね、アルファのお嫁さんになりたいの」
 
あの時の言葉が脳裏を過ぎった時、僕は床に片膝を付いて項垂れた。
 
この子はセシルじゃない。セシルじゃない……セシルじゃ――

「あのっ!」

「っ!」
 
今目の前にいる子はセシルじゃないと、そう自分に言い聞かせていた時、突然彼女の顔が目に飛び込んできた。
 
すると彼女は、とても心配した目で僕の事を見下ろしてきている。

「あの……大丈夫?」
 
そう言って彼女は優しい手付きで、僕の髪をそっと撫でてくれた。

「っ!」
 
ああ……やっぱりこの子は――
 
そう思った僕は何とか立ち上がって、真っ直ぐクラウン様を見つめた。

そして宣言するように、誓うように口を開く。

「クラウン様。僕はこの命に変えてでも、必ずシエル様を守ってみせます。クラウン様の……願いを叶えるためにも」

「ああ、期待しているよ。アルファ」
 
その言葉を聞いて、僕はバレないように歯を強く噛み締めた。