ヴェルト・マギーア 星の涙 ACT.2

「クラウン様。今の子が」

「……うん。兄さんの息子のブラッド君だよ」
 
クラウン様は僕から離れると椅子に座り直した。

「ブラッド君はね、生まれつき体が弱かったんだ。生まれながらにして高い魔力を持っていてね、今のブラッド君の雫ではそれを収める事が出来ないんだ。だから体の中で魔力が暴走していて、常にあんな状態になってしまっているんだ」

「……」
 
だからあの写真では、彼はベッドの中で赤い顔をしていたのか。

じゃあクラウン様が雫の研究をしているのって、もしかしてブラッドさんのため?

「お兄様……」
 
するとセシルは今にも泣きそうな顔を浮かべて、僕の服の裾を掴んできた。

「セシルさん……」
 
もしかして怖いのだろうか? 

自分のお兄ちゃんがいつもあんな感じで、いつ死ぬかも分からないから。
 
僕はそんな彼女を何とか安心させたくて、彼女の体を抱き上げた。

「あ、アルファ?」

「きっと大丈夫ですよ」
 
抱き上げた彼女の体を自分の太腿の上に座らせ、そっと優しく彼女の髪を撫でてあげた。

どうしたらこの子が安心出来るのかは分からない。
 
でも僕は不安になったり、怖くなったりした時は、クラウン様がいつもこうして優しく頭を撫でてくれて、【大丈夫だよ】と言ってくれた。
 
そのおかげで僕はいつも安心出来ていた。

だから彼女にも同じ事をしたら、きっと安心してくれるかもしれないと思ったんだ。
 
髪を撫でられるのが少しくすぐったかったのか、彼女は頬を赤くすると優しい笑顔を俺に向けてくれた。

その時また胸の辺りが温かくなって、僕の頬もほんの少しだけ熱を帯びた気がした。

✩ ✩ ✩

「それじゃあ、またね。セシルちゃん」
 
屋敷を出る頃にはもう日は沈み始めていて、空には綺麗な夕焼け空が広がっていた。
 
そんな夕焼け空を見上げていた時、セシルさんが僕の側に駆け寄ってきた。

「あ、あの!」

「セシルさん? どうしたのかな?」
 
僕は彼女の目線に合わせてしゃがみ込んだ。

すると彼女は自分の顔を僕に近づけるとそっと耳打ちをした。

「あのね、私……大きくなったらね――」
 
彼女の言葉を聞いた時、僕の胸が小さく高鳴った気がした。

「あれ? どうしたんですか、アルファ? 顔が真っ赤ですけど」

「へっ……そ、そんなわけないですよ! 顔が赤いのはきっと、夕焼けのせいですよ」
 
そう言って僕は熱くなっている頬を指先で触れたのだった。