『どうしたのですか? オフィーリア』
 
うずくまる私の姿に気がついたのか、レーツェルは心配そうに私の側まで飛んで来る。

「……何でもないよ。ちょっと気分が悪いだけですから」
 
伏せていた顔を上げて、彼女に心配をかけまいと私は微笑した。

『そうですか……。あまり無茶はしないで下さいね。星の涙の発作も酷くなっているのですから』

「……うん」
 
レーツェルの言う通り星の涙の発作はここ最近多かった。

昨日だって発作を起こってしまって、私は意識を手放して倒れた。

そんな私をお兄様が運んでくれたおかげで、今は涼しい洞窟の中で休ませてもらっているところだ。

「レーツェル。お兄様はどこへ?」

『アルバでしたら情報集めに街へ行っています』

「街?」
 
こんな近くに街なんてあったんだ。

「どんな街なの?」

『水の都――スイレンです』 

「スイレン?」
 
初めて聞く街の名前だった。

【水の都】って呼ばれているなら、ルークスと同じく大都市の一つなのかな?

『時間があるならゆっくりと観光してみたいものですが、今回スイレンへ向かうことには理由があるんです』

「理由?」
 
彼女の言葉に首を傾げた時だった。

『魔剣マールの回収です』
 
その名前に私は目を見開いた。

前にブラッドが魔剣マールは魚人族のセイレーンが所持していると言っていた。

おそらくお兄様はセイレーンの情報を集めに街へ行ったんだ。
 
だったら私も……!

「レーツェル。私たちも行きましょう」
 
彼女にそう言いながら、丁寧に畳まれて置かれていたフードを掴んで羽織る。

『体の方は大丈夫なのですか?』

「……大丈夫です」
 
今はここでじっとしているよりも体を動かしたかった。

そうでないと……さっきの事が脳裏を過りそうで怖い。

「そうですか……では行きましょう」

「うん」
 
洞窟を出た私とレーツェルはスイレンに向かって歩き出した。