ヴェルト・マギーア 星の涙 ACT.2

「どうしてって……それ、本気で言っているんですか? 今日は……僕をどこかに連れて行きたかったんじゃないですか?」

「あっ……!」
 
クラウン様は何かを思い出したように声を上げると、申し訳なさそうに苦笑してボサボサの金髪に触れた。

「ご、ごめんよ……アルファ。今直ぐ準備しますから」

「いいえ、もう準備は出来ています。さっきベータが出かける時に必要な物を、全て準備していたので」

「えっ、ベータがかい? あの子は本当に……ちょっと申し訳ないね」

「そう思うんだったら、いい加減自分で起きる癖を身に着けて下さい。こうして僕やガンマがお越しに来ないと、いつまでも寝ているんですから」

「ははは……ほんと、すまないね」

「全くですよ」
 
僕は少し怒ったように見せて、腕を組んでそっぽを向いた。
 
でもこうしてクラウン様をお越しに来るのは、別に嫌ってわけじゃなかった。

これはこれで、ちょっと楽しかったりするんだ。

「そう言えばクラウン様。今日の朝ポストを確認したら、魔法協会からの手紙が入っていましたよ」

「っ!」
 
【魔法協会】と言う言葉に、クラウン様は表情を固くした。

その姿に僕は目を細める。
 
魔法協会の人たちが魔法警察に命令して、奴隷区を火の海にした事はクラウン様から前に聞かされた。

どうやら魔法協会の人たちは、前々から奴隷区をどうにかして消し去りたかったらしい。
 
魔法協会で雫の研究をしていたクラウン様は、偶然にもその話を小耳に挟んで、ばれないように奴隷区に侵入して、僕たちの事を助けてくれた。
 
だから魔法協会の人たちも、奴隷の生き残りが居るとは思っていないのだろう。

こうしてバレずに普通に生活を送る事が出来ているのだから。

「今更……僕にいったい何の用が有るっていうんだ?」
 
クラウン様はボソッと何かを呟くと、ニコニコと笑みを浮かべた。

「その手紙は捨てておいて下さい。僕にはもう関係のないことですから」

「えっ、良いんですか?」

「構いませんよ。そんな事より、アルファも準備して下さい」
 
僕の隣を通り過ぎたクラウン様は、クローゼットの扉を開けると今日着ていく服を選び始める。