ヴェルト・マギーア 星の涙 ACT.2

シエル様は目をこすりながら床に足を付く。

「そういえば、なんだか夢を見た気がするの」

「夢、ですか?」
 
彼女でも夢を見ることってあるんだな……。

とそんな事を思いながら、夢の内容が気になった僕は彼女に問いかけた。

「あなたが夢を見られるなんて珍しいですね。いったい何の夢を見たんですか?」
 
ベッドのシーツを直しながら気軽にそう問いかけた時だった。

「家族の夢?」
 
その言葉を聞いて僕の心臓は大きく飛び上がった。

そして恐る恐る彼女の方へと振り返った。
 
まさか昔の記憶が戻ったのだろか? このタイミングで……?!
 
しかしシエル様はそれ以上何も言わず、大きく伸びをすると軽く翼をはためかせて部屋から出て行ってしまった。

「はあ……」
 
その姿に少なからず安堵しつつ、僕はシエル様が出て行った先を見つめた。

そして直していたシーツを力強く掴んだ。

「お願いですから、昔の事は思い出さないでくださいよ」
 
昔の事を思い出してしまったら、辛いのは君自身なんですからね。

それに僕だって……。

「アルファ〜。早く行こうよ」

「……はいはい、分かりましたよ」
 
シエル様に呼ばれた僕は、シーツを丁寧に直してから彼女の元へ向かった。

そして同時に初めて出会った日の事を思い出した。

✩ ✩ ✩

「クラウン様!! いい加減起きて下さいよ!!!」
 
僕はクラウン様の部屋の扉を蹴破って、ヅカヅカと部屋の中へと入って行く。

床に散らばっている魔法書の山を踏まないように避けていきながら、左に向かって勢い良くカーテンを開け放った。

「うっ! 眩しい……!」
 
クラウン様は掠れた声でそう言うと、とても眠たそうに目をこすりながら瞼を重々しく開いた。

そして両手に手を当てながらクラウン様を見下ろしている僕に気がつくと、とても驚いたように声を上げる。

「あ、アルファ?! ど、どうして君がここに居るんですか?」
 
そう言ってクラウン様は、枕元に置いてあった度の高い丸型の眼鏡を付けると体を起き上がらせた。

その姿に思わずイラッと来た僕は、顳かみをピクつかせながらニコニコと笑みを浮かべた。