ヴェルト・マギーア 星の涙 ACT.2

長い廊下を歩き終わった僕は、目の前にある真っ白な扉に前に立った。

軽く右腕を上げて、真っ白な扉を軽くノックし、息を吸って中に居る物に呼びかける。

「シエル様。朝ですよ、そろそろ起きて下さい」

「…………」
 
はい、いつも通り返事は返って来ない。

もう何十年とこうしてシエル様をお越しに来ているけど、そろそろ自分で起きる事くらい覚えて欲しい物だ。

そう内心で愚痴りながら、扉を自分の方へと軽き引き、部屋の中へと足を踏み入れる。
 
部屋の中は相変わらずシンプルで、白一色で統一された世界が目の前に広がっている。

しかし部屋の中にはほとんど何もない状態だ。

置かれている物があるとすれば、それは部屋の真ん中にある真っ白な机と椅子だけ。
 
部屋の窓には真っ白はレースのカーテンが付けられていて、少し開いた窓から吹き込む風によって、ゆらゆらと洗濯したてのタオルのように、同じリズムを奏でながら揺れている。
 
俺はその中でも特に大きく揺れているレースのカーテンに向かって歩き出した。

そして軽くカーテンを持ち上げて、奥の部屋へと侵入する。
 
すると俺の目の前には白くて大きな翼に包まれながら、小さく寝息を立てているシエル様の姿があった。
 
いつもの光景に優しく微笑みつつ、僕はシエル様の側によって頬を軽く指先でつついた。

「シエル様。朝ですよ〜。そろそろ起きて下さい」

「……う〜ん。…………アルファ?」

「おはようございます。よく眠れましたか?」

「うん……眠れたと思うけど、最近はベータがお越しに来てたから、アルファの姿を見るの久しぶりな気がする」

「そうですか? 僕はいたって元気ですけどね」
 
そうニコニコした笑みを浮かべながら言う。

シエル様には僕の体の事は言っていない。

気づかれるわけにも行かないから、シエル様の護衛にはしばらくの間ベータに頼んでいた。

ガンマでも良かったけど、僕以外の男がシエル様の部屋に入るのは、何か嫌だったからベータに頼んだんだ。