ヴェルト・マギーア 星の涙 ACT.2

「でもこの世界は暗いことばかりじゃないんですよ? もっと美しい物がこの世界にはあります。僕にだって知らない事や分からない事だってたくさんあるんだ。それを知っていく事はね、僕にとってとても喜ばしい事でもあるし、僕が成長する事にも繋がる。だから僕はアルファたちが成長して行く姿が凄く楽しみなんだ」
 
この時の僕はクラウン様の事を、自分の本当に父親のように見えていた。

我が子も同然だと言ってくれて、子供の成長を楽しみにしている姿はまるで、父親その物だった。
 
だから僕もそれに応えたくて、クラウン様の大きな指先を掴んだ。

そんな僕の行動にクラウン様は驚いたように目を瞬かせている。

「僕……女の人が……駄目……なんだ。母さんの事……思い出すから」

「……そうですか。だったら、僕が必ず守ってあげます。君が辛いと思った事の全てから、僕は君たちを必ず守ってみせる。だってこれでも僕は、アルファたちのお父さんなんだからね」
 
クラウン様はそう言って僕に子指を差し出した。

その子指に僕は自分の子指を絡ませて、僕たちは約束を交わした。
 
この日から僕は態度を改めてあの人を【クラウン様】と呼ぶようになった。

そして僕は父親として心から信じてみようと思えたんだ。

✩ ✩ ✩

着替えを終えた僕は、コツコツと靴音を鳴らしながら長い廊下を真っ直ぐ歩いて行く。

でも今のクラウン様はもう、あの頃のような優しかったクラウン様じゃない。

あの人は変わってしまった。僕たちの事も気にかけなくなってしまった。

でも僕はそれでもクラウン様に従い続けた。

それはクラウン様に恩返しがしたかったからだ。

クラウン様の命令を上手く遂行できれば、あの人にたくさん誉めてもらえて、少しでも恩返しが出来ているんだと思えていた。
 
だけど……それはもうやめようと思った。