ヴェルト・マギーア 星の涙 ACT.2

「ち、ちがっ……僕は……そんなつもりじゃ……」
 
声が震えた。

徐々に気持ち悪さが込み上げてきた。

額に嫌な汗がじわりと浮かんだ。

しかしそんな僕を他所に、女も開けた胸元を隠すと、嫌らしい笑みを浮かべると僕の側まで歩いて来る。

「あなた、駄目じゃないの。この子、怖くて震えているわよ。きっと親とはぐれてしまったのよ」

「だからって、普通は察するだろ?」
 
察する? 

一体何を察するって言うんだよ? 

お前たちがさっきしていたことを見て見ぬ振りでもして、踵を返して帰れっていうのか? 

そんなこと……今直ぐ出来たらどんなに良かったことか……。

「まあ、この子。珍しい髪色をお持ちじゃなくて?」

「ん? ……そ〜だな。よく見るとあまり見かけない髪色と瞳の色だな」
 
男は僕の顎をクイッと持ち上げると、自分の顔をグッと近づけて、僕の顔をまじまじと見始めた。
 
僕の髪と目の色がなんだって言うんだ! 

良いから今直ぐその気持ち悪い顔をどけろよ! 

そう力強く叫びたかったのに、唇が震えて声が出てこなかった。
 
今の僕の頭の中には、あの時の光景がフラッシュバックしていた。
 
知らない男に抱かれ、快楽に溺れていく母さんの顔。

鼻にツンときたあの嫌な臭い。そしてあの嫌らしい目つき……。
 
気持ち悪さが絶頂を達した時、僕は男の体を押し返してその場で吐いた。

「うぉえ……げぇ……はっ……うぇ……。はあ…はあ……」

「うわっ! このガキ吐きやがった! くっそ!! 俺の自慢の靴に付いたじゃねぇかよ!」
 
僕はお腹を抱えてその場でうずくまった。
 
気持ち悪い……気持ち悪い……気持ち悪い!

「まあ、何て汚い子供なの? 私たちの愛の邪魔までした挙げ句、この場で吐くだなんて」
 
何が……汚い子供だ! 

汚いのは……お前たちの方だろ! 

何が愛だ……! 

こんなところでそんな事をしている、お前たちの方がよっぽど穢れているじゃないか! 
 
そう言葉にしたいのに、気持ち悪いせいで声が出せなかった。

今直ぐこの場から逃げ出したいのに、体が震えて立ち上がる事も出来ない。