ヴェルト・マギーア 星の涙 ACT.2

「ち、違うんだ、アルファ! 僕はただ!」

「もう……良いんだよ!!」
 
クラウン様によって伸ばされた左手を、僕は思い切り跳ね除けた。

「あの時……僕は死んでも良かったと思っていたんだ! 唯一信じていた母さんにも裏切られて、僕たちを助けてくれると思っていた魔法警察の奴等にも裏切られた! もうたくさんなんだよ! 僕はもう誰にも裏切られたくない! あんな思いは……もうたくさんだ!!!」
 
僕は力強くそう言ってから、クラウン様の横を走り抜けた。

「あ、アルファ!」
 
僕は立ち止まらなかった。

ただひたすら走り続けて、気がついたら薄暗い路地に迷い込んでしまっていた。

「ここ……」
 
どこだ? そんな事を思いながら僕は後ろを振り返って、クラウン様が追いかけて来ているのかどうかを確認した。

しかし少し待って見てもクラウン様の姿は見られなかった。

「……ま、いっか。どうせ今頃慌てながら僕の事を探しているんだろうし。それとも僕のことなんか……」
 
僕は顔を伏せて裏路地の奥に向かって歩き出した。

すると奥の方で女性の声らしき物が聞こえた。

「女の人の声?」
 
もしかしたらこの近くに住んでいる人かもしれないと思った。

だったら街の大通りに出る道を聞こうと思って、僕は声のする方へと走った。

そして目先の角を左に曲がった時だった。

「あのっ! すみません、道をお聞き……」
 
僕は目の前の光景を見て絶句した。

そして思わず目を見張りながら数歩後ずさった。

今僕の目の前には男女のカップルが居て、こんな薄気味悪い路地裏でお互いに熱い口づけを交わしているところだった。
 
女性の服は少し開けていて、男は鎖骨に熱い口づけを落とす。

するとそんな男が僕の姿に気がつくと、少し嫌そうに眉を寄せた。

「ちっ……今良いところだって言うのに、何だこのガキは?」

男は乱れた服装を整えると、僕の前まで歩いて来る。

その姿に僕の体に震えが走った。

「おい、ガキ。まさか覗きに来たのかよ?」