「んっ……」

目を覚ますと真っ白な天井が目に飛び込んできた。
 
ああ、どうやらいつの間にか眠っていたようだ。

あの戦いで激しく魔力を消費させられたせいで、ここしばらく体内の雫が不安定だった。

そのせいで体の調子も前より悪くなって、ここ何日かは寝込んでしまっていた。

そして……あの嫌な夢を見てしまった。

「まったく……」
 
母さんの事は思い出さないようにしていたつもりだった。

あの頃の記憶に蓋をして、あのとき心に負わされた心の傷を見ないようにしていたと言うのに……。

「くそ……」
 
なぜこんな夢を見てしまったのか、既に原因は分かっていた。

それはクラウン様がオフィーリアさんを、自分の物にしようとしていた時の事がきっかけだと思う。
 
僕は今でもあの時の記憶がトラウマになっている。

見知らぬ男に抱かれ、快楽に溺れていた時の母さんの顔が今でも頭から離れない。
 
だからあの時も、オフィーリアさんの姿を見た時は気持ち悪さが込み上げてきた。

今直ぐに吐きたい衝動に駆られたけど、僕の目の前にはクラウン様が居た。

だからそんな姿を見せるわけにはいかなかった。
 
でも……クラウン様は知っているはずだ。

僕が人の……女の裸を見ただけでも吐いてしまうことを。

だけどあの時のクラウン様は、僕の事なんて気にかけていなかった。

前はそんなこと……なかったのに。

✩ ✩ ✩

あの燃え盛る奴隷区から僕たちを助けてくれたクラウン様は、僕たち三人を養子として迎え入れてくれた。

その頃のクラウン様は今とは違って、とても優しくて、ちょっと馬鹿でドジなところがあって、僕にとっては本当の父親みたいな人だった。
 
でもクラウン様に引き取られたばかりの僕は、人を信じる事を恐れてしまっていた。

クラウン様の事だって最初は【この人もいつかは僕を裏切る】と思っていた。
 
だから絶対に信用するもんかって思っていたんだ。

でも……ある日の事をきっかけで、僕はクラウン様を心から信じてみても良いかなと、思えるようになったんだ。