久しぶりに夢を見た。

それはとても懐かしく、酷く身を焦がしてしまう程の憎悪に襲われる物だった。

僕が見た夢はとても美しいと呼べた物じゃない。

最も穢れた夢だ。
 
心から唯一信じていた母親からの裏切り、僕たちを必ず助けてくれると信じていた奴等からの裏切り、しかしそんな物より最も僕が憎悪したのは、男の内にある醜い性欲だった。
 
母さんは僕を生んだ事によって、奴隷としての価値を失った。

じゃあ奴隷として価値を失った母さんは、いったい何の利用価値があったと思う?
 
僕は小さい時から嫌と言うほどこの目で見させられた。

顔も知らない、自分の父親でも何でもない男に抱かれて喜ぶ母さんの姿を、僕は何度も何度も何度も見てきた。
 
でも母さんはそうする事しか出来なかったんだ。

まだ幼かった僕を育てて行く為には、体を売るしかなかった。

だから僕もそんな母さんの事が好きだったし、申し訳ないとも思っていた。
 
だけど母さんは……僕を裏切った。

目の前で一本の包丁を自分の喉元に当て付け、泣き腫らした目で僕を見てきた母さん。

包丁を握る手は酷く震えていた。

息を乱しながら母さんは最後に言った。

「あんたなんか……生まなければ良かった」
 
そう言った母さんは力強く自分の喉元に包丁を突き刺した。

包丁を突き刺したところからは、勢い良く血が吹き出した。

その血は僕の頬にも飛び散り、母さんはぐったりとそのまま後ろに倒れ込んだ。
 
もうピクリと動く事のなかった母さんの側によって、僕はゆっくりと母さんの体を揺らした。

「お母さん……お母さん……お母さん……お母さん」
 
涙は一滴も流れなかった。

逆に僕の中では呪いのように母さんの言葉が巡っていた。
 
【あんたなんか……生まなければ良かった】と、その言葉が僕の心に深い傷を負わせたのは確かだった。
 
僕は母さんの事が好きだった。

でも母さんは僕の事が嫌いだった。

好きってなんだ? 

嫌いってなんだ? 

愛しているってなんだ? 

信じるってなんだ? 

裏切るってなんだ?

「どうして僕は……生まれてきたんだ?」
 
そして僕は壊れた。

いや……壊れたと言うよりも、僕は最初から壊れていたのかもしれない。

本当は僕も母さんの事が大嫌いだったけど、見て見ぬ振りをしていたんだと思った。

嫌いだと思ってしまったら、僕は愛されないと思っていたから。

孤独になる事を分かっていたからだ。