「死ぬ事を怖がっていたら、前になんて進む事が出来ねぇだろ。死を恐れていたら、自分が望んだ未来なんて永遠に手に入らないだろ。だから俺は力に飲み込まれたって構わねぇよ。例え飲み込まれたとしても、俺は必ずその力をコントロールして自分の物にして見せる。オフィーリアともう一度出会う事が出来るなら、俺は何だってやると決めたんだ。何を犠牲にしても、誰かを悲しませたり、傷つけてしまったとしても、それでも俺は前に進んでいく。彼女が……オフィーリアが幸せになれる世界を作るためにも」

「ブラッド……」
 
ブラッドからは一切の迷いが感じられなかった。

本当にこの男はそれほどまでの覚悟を持って、ここへやって来たんだと再確認出来た私は、ゆっくりと右手を差し出した。

そして深く深呼吸をして口を開く。

「私はエアの守護者にして魔剣サファイア。真の名はサファイア・スカビオサ。この力をお前に授ける」

「っ! ……ああ、ありがとう……サファイア」
 
ブラッドが差し出した右手を強く握り返したのを見て、私は自然と笑みを浮かべた。

そして同時にこうも思った。
 
この男ならば本当にやってのけてしまうのかもしれない。

例え氷結の力に飲み込まれたとしても、きっとブラッドならばその力でさえも物にしてしまうだろうと。

初めて会ってこんな風にもこの男を信じてみたいと思うのは、ブラッドがトトだからと言うわけではなく、ただのブラッドとしてこの男を信じてみたいと思ったからだ。

確かにブラッドこそが、この世界のトトになるに相応しい人物なのかもしれない。

しかしそれ以前にこの男はブラッドと言う男だ。

トトと同じ魔力を持っていたとしても、こいつはトトではない。

ブラッドとトトは全く別の人間なんだ。
 
だからこそ私もこの男の力になりたいと思った。

ブラッドの願いを叶えてやりたいと思った。

「ブラッド。お前に私の力を貸す代わりに、一つだけ条件を出させてくれ」

「条件?」

「私がお前に力を貸すのは今回限りだ。この件が無事に終わったら、私はここへ戻るつもりだ」

「ど、どうしてですか、サファイア?!」

「レーツェル。私たち守護者が選定出来る主は一人と限られている。こいつがアルの主なら、ブラッドを私の主にする訳にはいかない。……約束を果たせなくなってしまう。だからこそ私はここへ戻って来る。自分だけの唯一無二の存在を見つけるために、この先お前たちの力になるためにも」

「サファイア……」