「んっ!」
 
目に涙が溢れて私は抵抗するように体を動かす。

しかしクラウンはそんな私を抑え込むように体を強く抱きしめてくる。

そして口づけを落とし続ける。
 
いや……! 

ブラッド以外の人とキスだなんて! 

心から最も憎んでいるこいつなんかと!

「っ!」
 
私は何度も口づけを落としてくるクラウンの唇を強く噛んだ。

「――っ!」
 
そのとき抱きしめられる腕の力が緩み、その隙きに私はクラウンから距離を取った。
 
口づけをされた唇を服の袖で何度も拭った。

そんな私の姿をクラウンは面白そうに見てくる。

「ふっ……まさか噛みつかれるなんてな」

「あなたが……ふざけたことをするからです!」
 
クラウンを睨みつけながら、震える体を必死に保ちながら頬に伝る涙を拭った。

「あなたが私に釣り合う存在? 馬鹿なことを言わないで下さい! 私が認める人は……この世界でたった一人です!」
 
脳裏に彼の笑顔が浮かび私は胸に手を当ててそう宣言した。

私はブラッド以外の人なんて絶対に認めない。

求めることもない。

決して……。

「君にとってブラッド君がどういう存在なのかは把握ずみだ。しかし君が隣に居ることで、【運命】と言う名の呪いは彼を殺しかねないよ?」

「……」
 
そんなこと言われなくても分かっている。

あなたに言われるずっと前から……だから私は覚悟を決めて。

「まあ、最終的にブラッド君は始末するつもりだけど」
 
クラウンのその言葉に私は目を見開いて、手に力を込めて拳を作った。

「この世界に道化は二人も要らないからね」
 
クラウンはそう言い捨てると、私に背を向けてその場から姿を消した。

「近々君の元に迎えをよこす。そのとき俺のところに来るかどうかは、君の判断に委ねるよ。だが――」
 
【君は必ず俺のところに来る】と、クラウンが最後にそう言ったところで私は目が覚めた。