「あいつはアルファを助けるために俺に魔法を使った。だがあいつの魔法は目に見える物じゃなかった。この身であいつの魔法を直接受けた俺には分かる。あいつは体の中に俺以上の膨大な魔力を秘めているんだ。しかしあいつはその魔力を、まだ上手くコントロール出来ていないようだった。あの場に来たことだって、アルファは凄く焦ったように見えていたし、何よりあいつはクラウンの娘なんだ。クラウンの事をパパと呼び心から慕っているあいつは、必ずクラウンをこの世界のトトに選ぶと思う」
 
ブラッドはそう言うと悔しそうに唇を噛みしめる。

「なんで……セシルと同じ顔を……しているんだ」

「ブラッド……」
 
この男の心は壊れる寸前まで来ているんだと、ブラッドの様子を見ていた私は気づいた。

しかし何とかその心を必死に保ちながら、この男はクラウンを倒すために私の力を借りに来た。

この世界を守るため……いや、クラウンを殺すためにこの男はここへ来たんだ。
 
ブラッドは額から手を離すと立ち上がって、そのまま私たちを見下ろした。

「あいつを止めるためにも、一刻も早くあいつの居場所を突き止めないと行けない。こんなところで、立ち止まっているわけには行かないんだ」

「急ぐと言っても、お前はその男の居場所を突き止める手段でも持っているのか?」
 
アルとレーツェルがこの男を認めていると言っても、おそらくこいつの身と心は長くは保たない。

クラウンを倒した後に、残りの守護者たちを集めるために行動を起こそうとしても、ブラッドの中にある負の感情は間違いなく溢れ出す。

その負の感情に飲まれてしまったら、この男は闇の中に囚われてしまう。

最悪そうなってしまったら私がこの手で――
 
ブラッドは右目に巻いている包帯を丁寧に取ると、ゆっくりと右目を見開いた。

そして私に向けられる右目を見た時、心臓が大きく高鳴った。

「そ、その輝き……!」
 
ブラッドの右目は、星の涙と同じ青白い光を宿していた。

しかしその輝きは私が知っている星の涙の輝きよりも、より一層美しく青々と輝いて見える。

アルの話から星の涙は完全に破壊され、輝きを残した欠片の一部をイトが持ち去ったと言っていた。

だからエアの願いが叶えられたわけではない。

それだと言うのに、なぜこの男の右目には星の涙の魔力が宿っている? 

……いや、これは星の涙の魔力と言うよりも。