「サファイア。その事については俺から話すよ」

「っ!」
 
随分と久しぶりに名前を呼ばれた事に驚きながら、私は小さく頷かせて見せた。
 
こいつが私の事を名前で呼ぶってことは、並々ならぬ事情があるってことになる。

ブラッドが私の一言でここまでの殺気を放ち、そしてレーツェルがとても辛そうに涙を流している。

私はどうして二人がこうなってしまうのか、理由を聞かないわけにはいかないと思った。

「分かった、アル。話してくれ」
 
それから私はアルから、これまでの事を全て聞いた。

星の涙がまだこの世に存在していたこと。

星の涙を狙っている道化師と呼ばれる存在と、クラウンと言う男のこと。

そしてエアの末裔と呼ばれる、星の涙を体内に宿していたオフィーリアと言う女性の死のこと。

そして彼女がこの世界のエアであって、ブラッドにとってかけがえのない存在だったこと。
 
話を聞いていく中で、ブラッドの表情がどんどんキツくなっている事に私は気づいていた。

それはオフィーリアを守れなかった自分に対する表情なのか、それともオフィーリアを殺してしまったクラウンと言う男の事を、心から憎んでいる感情による物なのか、どちらにしろこの男は今直ぐにでも誰かを殺しに掛かる、と言う表情を浮かべているんだ。
 
そんなブラッドの様子を横目で伺いながら、私はアルに問いかけた。

「そのクラウンと言う男の元にイトが居るんだろ? だが……イトがこの世界のエアを殺すだなんて信じられない」
 
なぜイトは彼女を殺すような真似をしたんだ? 

誰よりもエアの事を考えていたあいつがなぜ?

「俺もどうしてあいつがあの男に拘るのか分からない。ただあいつは、最後まで見届ける義務があると言っていた」

「……義務、か」
 
それは二人がそう思っているのだろうか? それとも【弟の方】だけなのか?
 
私がもっと早くこいつらと合流出来ていれば、何かが変わっていただろうか? 

……いや、この結末はきっと変わらなかっただろう。
 
星の涙を体内に宿している時点で、死ぬ運命を回避することは難しいんだ。

なんせ星の涙は彼女の雫であって、彼女の最後の願いを叶えるために存在し続けていたのだから。

だからオフィーリアが死ぬ事は必然だったと言わざるを得ない。

ブラッドには申し訳ないが……。