「サファイア。この人は敵ではありません。むしろ私たちの約束の為に、動いてくれている人なんです」

「約束の……? じゃあそいつはレーツェルが認めた者なのか?」
 
私の言葉にレーツェルは表情を歪めると、ゆっくりと頭を左右に振った。

その姿に私は軽く目を見張った。

一体どういう事なんだ? 

レーツェルが主として認めた者ではないとしたら誰がこいつを?

『ブラッドを認めたのは俺だ』
 
すると私の耳にもう一人聞き覚えのある男の声が届いた。

ブラッドと呼ばれた男のマントの中から、もう一本の魔力の正体が出てくると、そいつは私の前で真っ直ぐ静止する。
 
そのとき私の顳かみの血管が軽く浮き上がった。

少し遅れてから徐々にイライラが募っていき、私は鋭く目を細めて目の前のある男を見つめる。

「まさか……お前がこの男を主にしたって言うのか? 【女男野郎】」

【女男野郎】と私がそうアルを呼んだ時、ブラッドは凄く驚いたように目を丸くしていた。

そしてブラッドはアルに視線を送る。

「女男野郎ってのは?」

『良いか、ブラッド。それ以上は何も聞いてくるな。絶対に聞いてくるな』
 
アルはそう言いながら元の姿へと戻った。

その拍子に紅色の短髪が揺れ、ピンク色の瞳に私の姿が映る。

両耳には相変わらずのピアスが付けられていて、それを目にした私は目を細める。

「久しぶりだな、【男女野郎】」
 
元の姿に戻ってから開口一番にその言葉を言われた私は、顳かみをぴくつかせた。
 
久しぶりに会ったと言うのに、この男は相変わらずの態度だな。

死んで少しくらい大人になっただろうと思ったが、どうやら中身はまだクソガキのようだ。

全然一ミリたりともどこも変わっていない。

「はあ。お前は……相変わらずだな。死んで少しくらいマシになったと思ったが、お前のそういうところは死んでも直らないんだな」

「うるっせぇよ! そいつはお互い様だろ!」
 
そこで私とアルのいつも通りの睨み合いが始まった。

お互いの間で火花が散り、青と紅色の炎が私たちの背後にそれぞれ現れる。

「な、なあ、レーツェル。もしかしてアルとサファイアって、仲が物凄く悪かったりするのか?」
 
私たち二人を余所にブラッドがレーツェルにそんな質問をしている。