「枷を外してくれたことには礼を言う。しかし頼み事を聞くかどうかは、お前がこれから話す内容次第になるぞ」

「じゃあ単刀直入に言わせてもらう」
 
そう言って男は右手を私に差し出してきた。

私は差し出された手を軽く見下ろし、目を細めて男の様子を伺おうとした時だった。

「俺にお前の力を貸してくれ」

「…………は?」
 
まさかこいつは自分を私の主として認めて欲しいって、そう言っているのか? 

……いや、大体はそうなるか。

そうなって当たり前だな。

私がどういう存在なのかを知っているんだったら、この力を欲する事は想定していなければいけない事だった。

だが――

「なるほど。私の力を求めてこんなところまでわざわざやって来たのか。……しかしすまないが、それは無理な話だ」
 
私は胸の前で腕を組むとそうきっぱりと言い捨てた。

男は私の言葉に左目を細める。

私はその理由を伝えようと口を開く。

「私の主になれる者は、私と同じ【氷国(ひょうこく)の出身、または氷国の王家の血を継ぐ者】だけと制限されている」

「なぜそう制限される? お前たちは自分で主を決めるんじゃなかったのか?」

「私の氷結の力を普通の人間が使おうとすれば、その身を凍らされ凍死させられるんだ。この場に居る者たち同様にな」
 
私は床に転がっている凍死体たちに目を配ってから、男に視線を戻して言葉を続ける。

「氷結の力は私でも抑える事が難しいんだ。特に魔剣になってからはな。私は氷結の力を核にして力を発動させる。だからエアが制限を設けた。下手な人間がこの力を振るうのは危険すぎるものだから、私がさっき言った通りの者しか主になる事は出来ない」
 
だから私がこの男を主に選ぶ事は出来ないし、魔剣サファイアが長年主を選ばないのもこれが最もな原因だ。
 
この世界には炎国の者は炎国の者と、氷国の者は氷国の者と、何てルールはもう存在していない。

だから好きな奴と結ばれる事が出来る。
 
例えば今この目の前に居る男の先祖は、おそらくどちらかが光国(こうこく)出身か、【巨大樹の都】出身になる。