「……お前が何者かは知らないが、この部屋に入ってきた事だけは誉めてやる。殆どの奴らは、この部屋に入る事を望まないと言うのに、大した度胸を持った奴も居たもんだな」

「そうだろうな。俺の足元で転がっている奴等を見るからに、おそらくこの部屋に普通の人間が入ると、お前の力で氷漬けにされて凍死させられるんだろう? そんなおっかない場所に誰が好き好んで入るんだって話だな」
 
そう言って男は部屋の中をぐるっと見渡した。

部屋の中に置かれている家具などは全て、私の氷結の力によって氷漬けにされている。

壁や絨毯、そして扉までもが全て凍りつき、この部屋の中はある意味冷凍庫と言ったほうが良いのかもしれないな。

原因はもちろん私の体から発せられる冷気のせいでもあるが、この部屋は私一人しか居ないんだ。

だから冷気を抑え込む必要がない。

逆に私は氷の世界で生きる方がよっぽど慣れている。氷の中に居る方が落ち着いていられる。

しかし今目の前に居る男は、私の体から発せられている冷気に直接当てられているはずだ。

それだと言うのに、この男は凍りつくどころか部屋の中を興味津々と見て歩いている。

とても普通の人間だとは思えなかった。

あのエアやトトですらも、一度凍りつきそうになった事があると言うのに。

金髪の男はある程度部屋の中を見て歩いてから、私へと視線を戻した。

男はさっきとは違ってとても真剣な表情を浮かべている。

そんな男の様子に私は少し警戒した。

「きっとあんたからしたら、この部屋のなかでこうやって余裕をこいて歩いている事は、おそらく信じられない事なんだろうな。でも俺がここへ来たのは、お前に頼みたい事があるからなんだ」

「……頼みたいことだと?」
 
薄々そんな予感はしていた。

でなければ、わざわざ私のところへ来る事もないだろう。
 
男は側に来ると、私の手と足首を拘束している枷に魔法を放って破壊した。

その行動に目を瞬かせたながらも、この男のお陰で自由になった私は、床に手を付いて立ち上がり、男の顔を青紫色の瞳に映した。