「【ウリエル】。駄目ですよ」

「……はい、兄上」
 
ミカエル様の言葉に彼女もまた剣を引くと、腰からおろされている鞘に剣をしまった。

「確かに私は全てを知っている。ブラッドがこの世界のトトだって言うことも、なぜクラウンがああなってしまったのかもね」

「……? その言い方ではまるで、クラウンは最初からあんな風ではなかったと言っているように思えますわね」

「う〜ん……まあ、そうだね。少なくとも私の知っている彼は、とても真面目で誰よりも純粋な人だったよ」
 
とても真面目で純粋な人ですって? 

……そんな風には到底思えませんわね。あの男のどこが真面目で純粋な……。
 
そこでわたくしは彼の言った言葉に疑問を持った。

「私の知っている彼……てことは、クラウンは元々魔法協会の人間だったと言うのですか?」
 
わたくしの質問にミカエル様は薄っすらと開けていた目を閉じると、ただニッコリを笑って見せただけだった。
 
そして踵を返すと元来た道を戻り始める。

「もし本当の真実を知りたいなら、あなたもクラウンを追いかけるといい」

「ちょっ!」
 
ミカエル様はそれ以上何も言うことなく、森の中へと姿を消してしまった。

その後ろ姿を見る事しか出来なかったわたくしは、この場に残った彼女に声を掛ける。

「あなたは行かなくて良いのですか?」

「……兄上様より。あなた宛に言伝を授かっております」

「……私宛に?」
 
いや、さっき居たのなら自分で言えば良いことじゃない。

そんな事を密かに思いながら、わたくしはウリエルの言葉を待つ。

ウリエルは懐から紙を一通取り出すと読み始める。

「セイレーン様。あなたにはまずやって頂くことがあります」

「やって頂くこと?」
 
あの男がわたくしに直接頼み事をするだなんて、珍しい事もあるものですわね。

しかしそんな大切な言伝をなぜ、自分では言わずこの子に任せたのか少し気になるわね。

「セイレーン様にはまず、これからクラウンの行方を追ってもらいます」

「行方を追ってもらうって……。そうは言われましても、あの人はまた行方を暗ませてしまったのですのよ? わたくしが把握しているアジトの場所はここが最後。それだと言うのに、一体どうやって彼を追えっていうのですか?」
 
わたくしの言葉にウリエルは腰にある地図を取り出すと、赤く丸印がされた場所に指をさした。