ヴェルト・マギーア 星の涙 ACT.2

「心にもない事をおっしゃる事はないですわよ? あの時あなたがわたくしに言った言葉は、今でもハッキリと覚えておりますので」

「これはこれは……君も案外根に持つタイプなんですね」

「ええ、そうですわね。根に持たれてしまうような事を言ったのはあなたですからね」
 
私たちの間で小さな火花がぶつかりあった。
 
この男の事だけは絶対に許す事の出来ない人間ですわね。

いくら人間族の観察が趣味であるわたくしでも、この男の事だけは絶対に知りたくもありません。

「そんなことより、あなたがどうしてここに居るのですか? まさかお父上様に何も言わず、こんな特に何もないところに観光にでも来たんですか?」
 
一々イラッとくるような言い方に我慢しつつ、わたくしは口を開く。

「お父様にはちゃ〜んと【しばらく留守にします】とお伝えして出てきましたので、心配ありませんわよ。今頃きっとわたくしの置き手紙を読んで、涙をボロボロと流されている頃ですもの」

「そりゃまた……お父上様もお可哀そうに。こんなじゃじゃ馬娘が将来魚人族を背負って立つだなんて、私としては凄く心配なことなんだけどな」

「またまた心にもない事おっしゃらないで頂けます? ……それより、わたくしの事よりも、あなたが何故こんなところに居られるんですの? てっきり……元の席に戻られたのかと思っていましたが」
 
わたくしの言葉にミカエル様は、ヤレヤレとでも言うように苦笑地味た笑みを浮かべる。

そしてわたくしからブラッド様へ視線を移動させた。

「魔法協会の方はしばらく彼に任せてあるから心配ありません。それに私はただ見に来ただけですよ。いったい誰がこの世界のトトになるんだろうってね」

「……それはつまり、【ただ面白そうだったから傍観しに来ただけ】と言うんですの?」

「まあ、そうだね。あなただって同じような物じゃないか?」
 
その言葉にわたくしは唇を軽く噛む。

そんなわたくしをミカエル様は面白そうに見てくる中言葉を続ける。

「だが……やはりこうなってしまったと思って、少し残念に思っているところもあるんだよ」

「……残念?」
 
それは一体どういう意味ですの?

「彼、ブラッドの事は私もよく知っている。クラウンによって人体実験を受けていた事や、彼が生まれながらに持っていた運命の事も」

「生まれながらに持っていた運命?」

「そう。ブラッドはね、トトの魔力を内に持っているんだよ」

「っ!」
 
あのブラッド様がトトの魔力を持っている?! 

……しかしそんなこと有り得ないはずですわ! 

星の涙が誰かをトトに選ばない限り、あの方の魔力を手に入れることは不可能。

あの【七大精霊】たちだって力を貸すことだってないはずです。