「………ブラッド?」
 
目の前にはこちらに背を向けている彼の姿があった。

その姿に少しホッとした私は彼の元へ向かって走り出す。
 
悪夢の世界でも彼は助けに来てくれる! 彼が居てくれるなら怖くない! そう思いながら私は彼の側へと寄った。

「ブラッド! 良かった、無事………で」
 
しかし私は目の前に立っている彼の姿を見て、口元を両手で覆った。

「ブラッド……!」
 
彼の背中には風穴が空いていて、そこからたくさんの血が流れていた。

ポタポタと赤い雫が海に落とされていく中、私は体から力が抜けてその場に座り込んだ。

「いや……いや! 私のせいで彼は……ブラッドが!」
 
ブワッと涙が溢れた時ブラッドの体はそのまま前に傾くと、海に突っ伏した状態で倒れ込んだ。
 
ぷかぷかと血の海に浮かぶ彼の目から光が失われていた。

それを見て私は……彼が既に死んでいることを悟った。

「ブラッド……」
 
ボロボロと涙が頬を伝って海に落ちていく。

海に流れ落ちた涙が血の海の中へと同化した時、あいつが姿を現した。

「……っ!」
 
私の目の前に姿を現したクラウンは、冷たい目つきでじっと見て見下ろしてくる。

そして右目に浮かぶ魔法陣を不気味に輝かせると、その中に星の涙の存在を映した。

「お願い……もうこれ以上、私から大切な人たちを奪わないで!」
 
懇願するようにそう言いながら、私は両手で顔を覆って泣き崩れた。
 
もう私のせいで誰も死んでほしくない。

心から愛している人が死ぬところなんて……見たくない!

「……こうするしか方法がなかったんだよ。君を俺の物にするにはね」

「だからって……みんなを殺すことなんて!」

「なら、俺の元へ来ればいい」

「っ!」
 
その言葉に心臓が大きく跳ねた時、クラウンが私の前に立った。

そして水面に膝をつくと、そっと右手を伸ばして私の頬に触れた。