「約束する。俺は必ず生きてみせるよ。自分の命を捨てるような事は絶対にしない」
 
その言葉を最後に、頭の中で流れた記憶はぷつんと途絶えた。

「……っ」
 
そしてまた俺の中でとある感情が暴れた。

その感情はまるで俺自身に何かを叫んでいるようで、喉元まで出かかっているある言葉を言わせようとする。
 
しかし俺はそれをグッと押し込んで飲み込んだ。

すると俺の中で暴れていた感情は落ち着きを取り戻すと、ずっとずっと暗い奥の方へと引っ込んで行った。

「ブラッド、大丈夫か?」

「あ、ああ……平気だ」
 
俺は額に浮かぶ汗を拭って視線を下に投げた。
 
あの記憶の中に居た女性は、夢の中で出てきた彼女なのだろうか? 

しかし今確かに記憶の中に彼女の存在はあった。

この目で月の光に照らされた彼女の白銀の髪を見たんだ。
 
どうして俺は彼女の事を知らない? 

なぜ思い出す事が出来ない? 

俺にとって彼女はいったいどんな存在だったと言うんだ?
 
きっと俺にとって特別な何かでなければ、あんな頻繁に同じ光景を夢で見ることなんてないはずなんだ。

だから……。

「……はあ」
 
一旦、自分を落ち着かせるために俺は軽く息を吐く。

そして机の上に置かれた袋をレオンハルトへと突き返した。

「悪いけど金は受け取らねぇ。そんな物無くても良い。だから今回は無条件で依頼を引き受けてやる」
 
そう言いニヤッと笑って、俺はレオンハルトに手を差し出す。

「だからお前も俺に協力しろ」
 
俺の姿に目を丸くしてたレオンハルトは、軽く笑うと躊躇うことなく俺の手を取った。

「分かった。ただ無茶はするなよ」

「ああ、大丈夫だ。自分の命をすてるような事はしないさ」
 
そう、自分の命を捨てるような真似は絶対にしない。

記憶の中に居る女性は俺を思って泣いてくれていたんだ。

だから俺は彼女との約束を守る。