「連れて行け」
 
その言葉と共にアルと同じ髪色と瞳を持った女性は、青年に腕を掴まれると連れて行かれてしまう。

アルは歯を噛みしめると女性に向かって必死に叫んだ。

「待ってろよ! 必ず助けに行くから! だから俺が行くまで絶対に諦めるなよ! 絶対だぞ! ヘレナ!!!」
 
ヘレナと呼ばれた女性は頬に涙を伝らせると小さく頷いて見せた。

そのとき彼女の左耳にはアルと同じ、青色と薄紫色のリボンが付いたピアスが揺れた。
 
そして場面はまた代わり、アルは雨が酷く降る中で地面に座り込んでいた。

そんなアルの周りには血を流している青紫髪を持った人たちが倒れていて、腕の中にはヘレナの姿もあった。

「すまない……約束……守れなくて」
 
アルはヘレナの手を取ると自分の頬へと擦り寄せた。

彼女の胸の辺りは血で染まり上がっていて、その光景を目にした俺は目を見張った。

「……すまなかった……ヘレナ。俺が……弱かったばかりに……」
 
アルは涙を流しながら最後にヘレナの体を強く抱きしめた。
 
その記憶を見終えると、俺の意識は元の現実へと引き戻された。

「――っ!」
 
慌てて目を開けると、レーツェルの心配そうに見下ろしてきている姿が飛び込んできた。

「大丈夫ですか? ブラッド」

「あ、ああ……大丈夫」
 
寝かせていた体を起き上がらせて、俺は拳を作って力を込めた。
 
さっきの記憶の中に出てきたヘレナと言う女性は、おそらくアルの恋人だった人だと思う。

ヘレナの右耳にはアルと同じリボンの付いたピアスが付けられていたし、きっと恋人としてお揃いの物を買ったんだと思う。

それが今アルの右耳に付いているって事は彼女はもう……。

「まったく……最悪な気分だな」

「アムール様?」
 
いつの間にか人間の姿に戻っていたアルは、声を低くしながらそう吐き捨てた。

そんなアルの様子を見てレーツェルも何かを悟ったのか、表情を暗くすると顔を伏せた。