ヴェルト・マギーア 星の涙 ACT.2

「このままで構わない。今のあいつにとって彼女は格好の餌だ」
 
クラウンは言い捨てるようにそう言うと、星の涙に目を向けることもなく部屋から出て行った。
 
一瞬の出来事で何が起きたのか分からなかったけど、クラウンは【あいつ】と言う言葉に鋭い殺気を見せた。

それもアルファたちが居るにも関わらずに。

「……あいつって誰のこと?」
 
クラウンが思わず殺気を漏らしてしまう程の相手と言ったら、私の中では一人しか思い浮かばなかった。
 
私は体から力が抜けたようにその場に座り込んだ。そして目尻に涙を浮かべる。

「そんな……だって」
 
彼は私の事を忘れているはずだ。助けに来れるはずがない。

「でも……」
 
もし何かの拍子にお兄様の忘却の魔法が解けたんだとしたら……。

本当に今ここへ向かって来ているのがブラッドなら……。

「…………会いたい」
 
ポツリと口からその言葉が出たと同時に、目尻に溜まっていた涙が頬を伝った。

顔を伏せてぎゅっと目を瞑り彼の笑顔を思い出す。

「ブラッド……ブラッド!」
 
もう一度あなたに会いたい。

それ以上はもう何も望まないから……お願いします星の涙。

もう一度だけ彼に合わせて……。

「ブラッド……」
 
涙をボロボロと流しながら私は、雨上がりの外を見つめたのだった。