ヴェルト・マギーア 星の涙 ACT.2

「っ!」
 
嫌だ! 

気持ち悪い! 

そう何度も思った時、目尻にたまっていた涙が頬に伝った。

その涙に気がついたクラウンは、私の着ている服に手を掛けた。

「な、何を!?」

「言ったじゃないか、君がどこまで我慢出来るのか試してみるかって」
 
その言葉に目を見張った瞬間、クラウンは両手を使って私の着ていたドレスを破り捨てた。

「きゃあああ!!」
 
私は直ぐに自分の体を隠すようにその場にうずくまった。

「いや……いやあああ!!」
 
正直もう限界だった。

これ以上やられたら、本当に心が壊れてしまう気がした。

愛していない人と、心から憎んでいる人とこんなこと……! もう耐えられそうにない……。

「さあ、覚悟を決めるんだな」
 
クラウンは右目を不気味に輝かせた。するとその拍子に私の体はピタリと固まって動かなくなってしまった。

「えっ……!?!」
 
次にクランは人差し指を私に向けると、指先をクイッと軽く傾ける。

するとその場にうずくまっていたはずの私の体が勝手に立ち上がった。

「ど、どうして……」
 
思うように体を動かす事が出来ず、力を入れることすら出来なかった。

いったい何が起こっているのか分からず、恐怖が私の体を支配し始めていた。

「いくら足掻いても無駄だ。この瞳が君の姿を映すかぎり、君は永遠に私の言いなりなのだから」
 
彼の言う通り右目の中には私の姿が捉えられていた。

まさか右目の魔力を使って私の体の自由を奪っているの?!

「君の心と体を今ここで奪ってあげよう。君が本当に心から愛している者のところへ帰ることは二度とないのだから」

「……っ」
 
そんなこと……言われなくてもとっくに分かっていることだった。

クラウンに言われる前からずっと、ここへ初めて来た時から私はそう自分に言い聞かせて来たんだから。
 
ならいっそ、ここで楽になった方が良いのかな? 

そうすればブラッドの事を忘れられるの? 

もう……生きたいと思えなくなるのかな?

「さあおいで――俺だけの【エア】」
 
クラウンの手がゆっくりと私の体へと伸ばされる中、【エア】と呼ばれた私は歯を強く噛み締めた。