「だからね私……家族が欲しかったんだ!」

「か、家族?」

「うん! そうなの!」
 
シエルちゃんはパァッと顔を輝かせると私の手を取った。

「クラウンは私のパパで、ベータはお姉ちゃん、ガンマはお兄ちゃんで、アルファは弟で、そしてオフィーリアがママなの!」

「……私がママ」
 
私の言葉にシエルちゃんは嬉しそうに笑顔を浮かべた。
 
その笑顔に私は複雑な気持ちになった。

彼女の笑顔は嘘偽りのない物で、本当にシエルちゃんは私の事をママだと思っているんだと、家族だと思ってくれいるんだと知ってしまったら、何て言ったら良いのか分からなかった。
 
でも……私は申し訳ないと思いながら彼女からそっと手を放した。

「ごめんなさい……シエルちゃん。私はあなたのママにはなれません」

「……やっぱり駄目なの?」
 
シエルちゃんは目尻に涙を浮かべると顔を軽く伏せた。

そんな彼女に私は言葉を続ける。

「……私があなたのママになる事も、クラウンを愛する事もこの先絶対にありえません。私にはもう……心から愛してしまっている人が居るのですから」
 
私はこの二ヶ月の間、ブラッドと一緒に歩む未来のことをたくさん想像した。

朝になって目を覚ましたら、隣には必ず彼の姿があって【おはよう】の言葉を交わす。
 
そして一緒に街へ出かけたり、ブラッドが私に見せてくれると言った海や山に行ったり、他愛のない生活を一緒に送っていく日々。

きっとその中で私と彼との間には子供が出来ているのかもしれない。

ブラッドだったらきっと良いお父さんになれると思う。

たくさんの愛情を注いで子供たちに未来の話をしてくれる。
 
そんな事ばかりを想像して、絶対に実現することのない夢物語だとしても、私はそれでも幸せだった。

「……オフィーリア」
 
シエルちゃんは小さく私の名前を呼んで、何か言葉を口にしようとした時だった。

「シエル。こんなところに居たのか?」

「っ!」
 
部屋の中に響き渡った声が耳に届いた瞬間、私の体に鳥肌が立った。

徐々に心拍数も上がってきて体が熱くなっていく。