「……っ」
 
その姿に驚いた私の頬を一滴の汗が流れ落ちた。
 
シエルちゃんはたまに自分の気配を一切感じさせないで、この部屋に遊びに来たり気がついたら目の前に居る事があった。

最近になってようやく慣れて来た事だけど、でもやっぱり突然目の前に要られたりするのは心臓に悪かった。
 
それにやっぱり一番気になっていたのが、背中に生えている真っ白な翼の存在だった。

アルファやベータには彼女と同じ物は生えていない。
 
なぜ彼女だけ翼を持っているのか、まさかこの子もブラッドと同じクラウンの人体実験を受けた子なのだろか? 

何て考えた事もあったけど、シエルちゃんはブラッドと違ってクラウンを【パパ】と呼んで心から慕っているように見えた。

「ねぇ、シエルちゃん。一つ聞いても良いですか?」

「ん? なに?」

「あなたは何故ここに居るの?」
 
私の突然の質問はシエルちゃんは目を数回瞬かせた。

しかし直ぐに苦笑した笑みを浮かべると、膝を抱えながらその場に軽く浮いた。

「……知らないの」

「えっ?」
 
彼女のその一言に私は軽く目を見張った。

「私ね……昔の記憶がないの。だから自分はいったい何者で、どんな存在だったのか分からないんだ。知っている事があるとすれば、目が覚めたらここに居たって言う事と、パパの娘だって言うことだけ」

「……」
 
昔の記憶がない……それは人体実験による後遺症のせいなのだろうか? 

それともクラウンが彼女の記憶を忘却してしまったのか……。
 
でも唯一分かる事があるとすれば、彼女がクラウンの本当の娘ではないと言うことだ。

クラウンとシエルちゃんは何一つ似ていない。髪の色や顔立ちだって全然違う。
 
そう……シエルちゃんの顔立ちはブラッドに似ているんだ。

髪の色や瞳の色だって一緒だし……。