「いいえ。それだけは絶対にありません。今ここではっきりと告げましょう。私が愛しているのはブラッドと言う、この世界で一番かけがえのないただ一人の存在だけです」
 
私がクラウンを愛することは絶対に有り得ない。

どんな事が起きても、どんな事をされても、彼への気持ちが揺らぐ事なんて絶対にないのだから。

「では……もし彼が君を助けに来たら、君は俺との約束を破って彼と共に行くのかな?」

「……彼は、来ませんよ」
 
そう小さく呟いた後、何とか作り笑いの笑顔を浮かべながら言葉を続ける。

「私は覚悟を持って彼から離れたんです。あの人を……愛した人を守るために」

「……」
 
クラウンは私の言葉に特に反応を示すことはなかった。ただつまらなそうに。

「ほんと……お前もあいつも似たような事を口にするんだな」
 
ボソッと何かを言うと再び私に背を向けると歩き出した。

「君の世話はベータに頼んである。何かあったら遠慮なく言うと良い」
 
クラウンは最後にそう言うと暗闇の奥へと姿を消した。

✩ ✩ ✩

「ブラッド……」
 
この声が彼に届くことは二度とないと知っていても、気づいた時には彼の名前を何度も呼んでいる自分がいた。
 
守護石もなくレーツェルも居ない今、この恐怖を和らげてくれたのが、彼と一緒に過ごした記憶と胸元にある星の涙の存在だけだった。

「本当は……すごく怖い」
 
クラウンから聞かされた話しはもう一つある。
 
それは【この世界のトトを選ぶ権利】があるのが、星の涙を体内に宿している私だと言う話だった。

エアの最後の願いと言うのが【この世界のトトを探してほしい】と言うもので、その願いを叶えてあげる事が出来るのが、私と言う唯一無二の存在だとクラウンは言っていた。