「ブラッド君に君の名前を出さずに、愛しい人が俺の隣に来てくれたと言ったら、彼は何て言ったと思う?」
 
前にそんな話をクラウンとした事を思い出してしまい、瞳を酷く揺らしながら頬に一滴の涙を伝たらせた。

「ブラッド君は君のこと、【どうせろくでもない奴なんだろう】って言ったんだよ。あれほど君の事を愛していたと言うのに、記憶を忘却すると人は、ああも心変わりをする物なんだね」
 
その言葉に酷くショックを受けたのを、今でもハッキリと覚えていた。

体が悲しみと恐怖で震えながら泣きたい衝動に駆られた。

でも私はそれを何とか必死に堪えながらクラウンを睨みつけた。

「記憶を忘却してしまったのですから、あの人がそう言ってしまうのは無理もありません。だって彼は【私の事を知らない】のですから」
 
その言葉にクラウンは少し驚いたのか目を数回瞬かせた。

しかし直ぐにニヤリと不敵な笑みを浮かべた。

「へぇ……その言葉は予想していなかったよ。てっきり子供のように泣いて泣き崩れるのかと思っていたんだけどね」

「そうですか。なら残念でしたね。あなたの期待通りにならなくて」
 
絶対この人の思い通りになんてならない。そう固く自分に誓って再びクラウンを睨みつける。

そんな私をじっと見てきていたクラウンは、何かが気に入らないかのように目を細めた。

「その目……面白くないな。だが……今は良しとしよう」
 
そう言ってクラウンはマントを翻すと背中を私に向けた。

「今はそう強がっていると良いよ。君は絶対俺の事を愛するのだから」
 
私はその言葉に目を軽く見張った。

そして同時にそんな自信がどこから来るのかと思いながら、私は彼に宣言するように胸元に手を当てた。