もちろん最初はそんな話を信じる事は出来なかった。

でも……そう思っていても少なからず、あの人が言う事は嘘じゃないと思っている自分もいた。
 
それにクラウンは、星の涙が主の魔力を徐々に吸収していっている事も知っていた。

その理由についても詳しく説明してくれた。
 
星の涙が主の魔力を吸収するのは、この世界を作った時に消費してしまった魔力を取り戻そうとしているから、またエアの最後の願いを叶えるためだとも言っていた。
 
世界を作った時に消費してしまった魔力を使って、星の涙はエアの最後の願いを叶えようとしていると、その真実を知ってしまった時……私の体は震えた。
 
星の涙は元々エアの雫だから、エアのために働くのは当たり前なのだ。
 
だから私はそのための入れ物に過ぎないと、エアの願いを叶えてあげる為だけの存在なんだと強く思い知らされた。
 
結局私は……生まれた時から死ぬ運命だったんだ。

幸せになる事なんて許されていなかったのよ。

だってお母様や星の涙を体内に宿していた歴代の人たちも、みんなが【エアのため】だけに死んでいった。

「私も……最後はエアのために……」
 
エアの末裔からしたら彼女のために死ねる事は誇りだと言うだろう。

当然、昔の私だったらそう思えていたかもしれない。
 
でも今は……そんな風には到底思えなかった。
 
エアのために自分の人生と命を差し出すだなんて、幸せになる事を許されないだなんて……そんなの間違っている!

「……ブラッド」
 
そう私が思えるようになったのは、他の誰でもない彼の存在があったから。
 
ブラッドは私に【未来へ一緒に行こう】と言ってくれた。

そのために彼はこの星の涙をどうにかしようとしてくれたり、【諦めるな】と言って私を勇気付けてくれた。

私に【生きたい】と強く思わさせてくれた。
 
でも……私はそんな彼の言葉や思いを……なかった事にしてしまった。
 
私は目尻に涙を浮かべて再び膝に顔を埋めた。
 
クラウンは私との約束どおり、ブラッドの前に姿を現す事はなかった。

彼を襲う事もなくなり、きっと今頃幸せに暮らせているはずだ。
 
そう、私がここに居る限りブラッドは安全なんだ。

もう再び傷つく事も命が危険に晒される事はないんだ。