偽恋人からはじまる本気恋愛!~甘美な罠に溺れて~

「実は、先週、たまたまパリメラで君の演奏を聴いていた音楽事務所から専属マネジメント契約を交わせないかとオファーがあった」

「っ!? 私に?」

専属マネジメント!? 嘘……本当に?

あまりの驚きに思わず腰を浮かせ、その拍子にびっくりしたシオンが飛び跳ねて逃げてしまった。

私は樹さんを見つめ、また彼も私を見つめた。

「君が事務所と契約を締結すれば、今後の活動支援は約束される。ピアニストとしての道がもっと開けるということだ。ちなみに事務所は“ラティス”だ。もちろん君も知ってると思うけどね」

ラティス音楽事務所――。

知らないわけがない。私は開いた口を手で押さえながら放心した。

ラティス音楽事務所は世界的ブランド主催イベントでの演奏や、数多くの優秀な演奏派遣実績のある名の知れた事務所だ。けど、なにより驚いたのは、私の母、有坂順子がピアニストとして所属している所と同じ事務所だったことだ。

「もちろん社長も君の母親が有坂順子であることを承知の上だ。君の本業はOLだし、会社の関係もあるから返事は急がないと言っていた」

信じられない。お母さんと一緒の事務所に……私が?

しばらくの沈黙。シオンの小さな鈴の音がものすごく大きく感じられる。次第に自分の心臓もドクドクと高鳴り始めた。

「いきなりのことで戸惑うのもわかる。もし、考え抜いてやっぱりこの話を見送りたかったら――」

私は言葉が見つからなくて、とにかくブンブンと首を振って否定した。

「あの、樹さん、私……」

ゴクリと息を呑んで胸に手をあてがいながら気持ちを落ち着かせる。

「このお話お受けしてもいですか?」

こんなに即答されると思っていなかったのか、私の返事に樹さんが目を見開く。