偽恋人からはじまる本気恋愛!~甘美な罠に溺れて~

けど、本当に梨花さんの契約を切っちゃって、水城さんはこれでよかったのかな……。

胸の中でまだ燻っているものを見透かすように、水城さんが小さく笑った。

「まだなにか気にかかってる。そんな顔だな、梨花のことか?」

「……はい」

水城さんの温かな手が私の頭をそっと撫でる。

「あんな目に遭わされても梨花のことを気に掛けるなんて、君は本当に人のことを考える人だ。それが、君の優しさでもあるんだけどな」

これが優しさなのか、自分でもわからない。

「梨花のことはこれでいいんだよ。実を言うと彼女は前から活動の拠点をオーストリアに移そうか悩んでいたんだ」

「え? オーストリアに?」

「ああ」

梨花さんは業界でも有名なピアニストだ。だから、もっと海外へ羽ばたきたいという思いはあったのかもしれない。梨花さんが決断を悩んでいた理由、それは……。

「パリメラとの契約のせいで二の足を踏んでいたみたいだ。これできっぱり踏ん切りがついただろう」

水城さんは、私を覗き込んでにこりと笑った。

そっか! だから水城さんは敢えて契約を……?

ハッとして顔をあげて彼を見ると、優しく見つめる視線と目が合う。

「けど、ビジネスで一度失った信用を築き直すのは難しい。今回のことで梨花も学んだだろ。あの自由奔放な悪いクセを直せば、海の向こうでもまたうまくやるさ。だから君が心配するようなことはなにもない」

私の中でモヤモヤとしていたものがスッと晴れていく気がした。

「そうだったんですね、それを聞いて安心しました。あ、そういえば……」

「まだなにかあるのか?」

「水城さんって梨花さんから告白されてたんですか?」

――以前、君から告白を受けた時にも言ったが……君の気持ちは受け取れない。

ふと、先ほどの梨花さんとのやりとりを聞いて思い出す。すると、水城さんがギクリとして苦笑いを浮かべた。

「昔の話だよ。けど、梨花が本当に好きな男は俺じゃない」

「え?」

ほかに好きな人がいるのに、どうして水城さんに告白するのかわからない。梨花さんの不可解な行動に、私はきょとんとする。