私の中におっさん(魔王)がいる。~花野井の章~


 * * *

 こんなにも、誰かを恨みがましく思ったことはなかった。
 だけど、泣いたことで、少しだけ諦める準備が出来たような気がしていた。

「はあ……」

 私は鬱憤を吐き出すように、大きなため息をついた。
 諦めなくちゃ。だってあの二人は恋人同士なんだから。
 痛む胸を擦る。

「ねえ。もう良いかしら、本題に入っても?」
「え?」
(まだいたんだ……この人)

 彩さんは、脚を組みながら椅子に座り、綺麗にネイルされた爪を見つめながら、大した興味もないように私に声をかけた。
 彩さんは、私が泣き止むまでずっと黙って部屋にいたみたいだ。

(普通、人が泣いてたら慰めるか、出て行くかしないかな?)

 ただ黙って見られてたなんて、なんか恥ずかしいよ。

「あの、えっと、本題って?」
「あの人が本気になったのは、貴女じゃないってのは、分かったわ。じゃ、誰なのよ?」
「えっと」
(言って良いのかな?)

 告げ口するみたいで、ちょっと後ろめたい。
 私が迷っていると、彩さんはイライラした調子で立ち上がった。

「貴女知ってるの? 知らないの?」
「えっと、知ってますけど……」

 彩さんが知ったら鈴音さんとケンカになりそう。

「貴女、私がその女のことを知ったらどうにかするとでも思ってるの?」

 なんでバレたんだろ。

「えっと、はい」
「別に知ったって今更どうにもしないわよ。ちょっとそいつの面を拝んでやりたいだけよ。で、どうなのよ?」

 呆れたように言って、私に詰め寄った。
 まあ、そういう事だったら……いっか。

「えっと、鈴音さんというメイドさんです」
「ふ~ん。あの女ね。そうは思えないけど」
「知ってるんですか?」
「当たり前でしょ。私はここに住んでたのよ?」

 彩さんは、嘲笑するように鼻で笑った。
 ああ、そっか。この人ここに住んでたんだった。

「それにしても、あの人が本気になる女が出来るなんてねぇ。驚きだわ」

 懐かしがるように、遠い目をして彩さんは言う。
 でも、結婚してたんだから、本気だったときもあるんじゃないの?