* * *
私が目を覚ましたのは、お昼だった。
いつの間にか、泣き疲れて寝てしまったみたい。私は目を擦って、ベッドから降りた。
「きっと今ひどい顔してるんだろうなぁ……」
私はぽつりと呟いて、頬を擦った。そのとき、
「失礼するわよ!」
バタン! と、乱暴にドアが開いて、勢いよく彩さんが入ってきた。
「え、な、なんですか?」
泣きすぎて声がかすれてる。
彩さんは、私の顔をじっと見て、それからツカツカと私に近寄ってきた。
私はなにがなんだか分からず、わたわたと慌ててしまった。
「貴女ね?」
「は?」
「花野井の心を射止めた女よ!」
「……え?」
(なに言ってんの、この人?)
呆然としている私に、彩さんは続けた。
「夕食の後のことよ。貴女が部屋へ引っ込んだ後、私、花野井にせまったのよね。そしたらやんわりとかわされたわ。こんなこと、一度もなかった! あの人が女の誘いを断るなんて、異常よ! 本気の女が出来たに決まってるわ!」
(鈴音さんだ)
それは、きっと鈴音さんのことだ。
私の中に、ぐるぐるとしたものが渦巻いた。
どす黒くて、赤黒いような、どろどろとしたもの。――嫉妬だ。
沢辺さんに、顔が綺麗でいいなとか、スタイルが良くて羨ましいとか、そういう風に嫉妬したことはあったけど、だけど……。
こんなに、怒りにも似た、この悔しさ――こんなこと、こんな想い、一度もない。一度も。
数日前の夜の出来事が頭を過ぎる。
アニキの切ない瞳。優しい口づけ。
鈴音さんが羨ましい。
眼の前の、彩さんが羨ましい。
私の知らないアニキを知ってるんだ。
私の頭を撫でる、あの大きな手で抱きしめられたことがあるんだ。
私にはこない。もう、一生ない。叶わない。
私はぎゅっと唇を噛み締めた。
だけど、涙が溢れ出すのを堪えることは出来なかった。



