屋敷へ帰ってから、私はベッドの上に横になり、すぐに眠りについてしまった。
 地下牢の中では、寝たんだか寝てないんだか、神経が過敏になって、上手く眠れなかったからか、ベッド横になった途端に、瞼が落ちて、深く寝入ってしまった。

 私が起きた時には、すでにお昼が過ぎていた。
 ゆっくりとベッドから降りると、寝ぼけ眼を擦った。
 すると、控えめなノック音が聞こえてきた。

「はい?」
 返事を返すと、戸惑った表情で、鈴音さんが戸から顔を覗かせた。
「あの、お客様がいらしております」
「お客様?」
 私が眉を顰めると、鈴音さんの上からひょっこり葎王子が顔を出した。

「やあ」
「葎王子。どうしたんですか?」

 驚いて訊ねると、彼は、人懐っこい笑みを浮かべる。

「青嵐と呼んでくれても構わないよ。僕はそっちの名の方が好きなんだ」

 軽やかに言って、部屋に入ってくる。

「ちょっと付き合ってもらいたい所があるんだけど、良いかな?」
「はい?」

 首を傾げると、葎王子はにこりと笑んだ。

「はい?」
 私が首を傾げると、葎王子はにこりと笑んだ。

 葎王子に連れられてやってきたのは、本殿の中の一室だった。
 そこはやっぱり、誰かの寝室のようで、寝台がある。

 きっちりと片付けられた部屋で、葎王子の部屋と違い、机も寝台も綺麗に整頓されていた。南側だろうか、陽光が差し込んでいる窓の壁には銀色のウロガンドがかかっている。

 壁掛けタイプのウロガンドはタイマー機能がついてる物とついてない物があるらしいけど、このウロガンドは厚みがあるし、壁にくっつかないように少し浮くようにかけられているため、多分タイマー機能があるタイプだ。

 もしかして客間なのかも知れないと思ったけれど、机の上には巻物が整列されていたので、客間ではなさそうだった。

「あの、ここは?」
「うん。まあ、今来るから待っていたまえ」

 葎王子は、そうはぐらかし、「じゃあ、僕はこれで」と言って部屋を出て行こうとする。
「ちょっと待て下さいよ!」
 私が引き止めると、彼は振り返ってにこりと笑った。
 そして、手を振って、扉に手をかけ、そのまま出て行ってしまった。

「なんなの?」
 相変わらず、自由人だなぁ。

 肩を竦めながら、とりあえず目に付いた椅子に座った。
 そわそわしながら、部屋を見回していると、「失礼する」扉の向こうから声がして、扉が開いた。