月鵬さんが、アニキを叩いた後、暫くは呆然とした時間が流れた。
 一番最初に我に帰ったのは使用人で、自分たちが聞いてはいけない話を聞いたと思ったのか、みんな気まずい顔をして、そそくさと去って行った。

 皇王子の部屋に残されたのは、アニキと、月鵬さんと、亮さんと、鉄次さんと、葎王子と、安慈王子――そして、私。

 志翔さんは、廉莉さんと兵士が連れて出て行った。
 私はアニキと皇王子を見やった。

 皇王子は、顔をこわばらせながら黙り込み、アニキもまた、黙っていた。
 月鵬さんは、呆れ果てて、泣き出しそうな顔をしながらしゃがみ込む。
 そこに、コホンと、咳払いが聞こえた。

「さっき、あの女が言ってたことだけど、まさか、けんちゃんの子供ってわけじゃないのよね?」

 鉄次さんが遠慮がちに質問を投げかけると、怒声に似た叫びがあがった。

「違う!」

 一瞬アニキかと思ったけど、それは亮さんだった。

「亮?」

 鉄次さんは怪訝な顔をしながら、亮さんの顔を覗きこむ。

「花野井様は、柚は――」

 何かを言いかけて、亮さんは歯軋りを響かせた。
 そのまま黙り込む。

(このままじゃ、らちがあかなそう)

 私はおずおずと切り出した。

「あの、皆さんが、知っている事を話していきませんか?」

 アニキのことをしっかりと知っておきたい。それがどんなものだったとしても……。
 私達は互いの顔を見合った。
 そして、一番最初に口を開いたのは――。

 * * *