ふぅ………

裁判が結審した後、私は傍聴席で小さく息を吐いた。

大和さんは私の隣から手を握ってくれている。

「終わったな。」

「うん。」

大和さんの言葉に頷いた私は、こてんと大和さんの肩に頭を預けた。

傍聴席にいた人々が全員退室した後、

「行こうか。」

と声を掛けられ、私はまた、

「うん。」

と頷いて立ち上がった。



大和さんは、そのまま私を助手席に乗せて車を走らせた。

早々と降りる夜の帳の中を静かに進み、18時半、ようやく目的地に着いた。

「大和さん、ここ… 」

「ああ。
判決がどう出ても、2人でここに来ようと
思って、予約しておいたんだ。」

ここは、『朧月』の舞台となった旅館。

私たちが初めてのデートで来て、初めて結ばれた場所。

だから、今日だけじゃなくて明日も図書館を休むように言ってたのか。

大和さんがチェックインの手続きをして、部屋に入る。

今回は、前回泊まった部屋より広くて、露天風呂付きだった。

それを見て、はたと気付く。

「私、泊まりの用意してきてない!」

すると、大和さんが笑った。

「ははっ
大丈夫。俺がしてきた。」

「え!?」

見ると、大和さんの手にする旅行鞄の中から私の少し大きめのトートバッグが出てきた。

「どういうこと?」

私が中を覗くと、私が今朝使った化粧品がそのままごっそり入っている。

「ふふっ
このまま持ってきたの?
旅行用の小さなボトルもあったのに。」

「うん。
どれを持ってこればいいのか分からなかった
から、今朝使ったのを持ってこれば外れない
かなと思って。」

「ふふっ
ありがとうございます。」

私は、化粧品を出して並べる。

と、その下にビニール製のショップバッグが入っている。

何?