確かに、気の毒だとは思う。

だから、裁判の前、先方の弁護士が示談交渉に来た時、一度は許してあげようという気になったのも本当だ。


だけど、大和さんは違った。

辛いのは襲われた私の方であって、襲った彼ではない。

実際、もし、ここで執行猶予がついたら、私はまた怯えた生活をしなければいけない。

そう説得されて、厳罰を望むという方針で裁判は進んだ。



最初の裁判から2週間後、裁判は結審した。

判決では初犯ということもあり、情状酌量が認められ、執行猶予がついた。

しかし、代わりに障害者施設へ入所し、適切な支援・指導のもとコミュニケーション能力の向上と再就労を目指すことになった。



彼は収監されなかったが、私はこれで良かったと思う。

裁判中の彼は、反省しているようにも見えたし、彼を無理に部屋から出さなければこんなことにはならなかったんだと思うから。


思い返せば、彼は、私を襲った時も、私と目を合わせなかった。

でも、発した言葉は不自然なものではなかった。

多分、読書好きというだけあって、言語能力は高いんだと思う。

だったら、部屋に引きこもってできる言語関係の仕事をすればいいんだと思う。

ライターや校正などの内職のような仕事はネット上に溢れている。

対面して口頭でやり取りするより、ネット上で文字だけで会話する方が彼には向いてると思うから。