犯人が捕まり、私は平穏な日々を取り戻した。

だけど、あの日当たりの悪いアパートに帰ることなく、未だ大和さんのマンションに一緒にいる。

一度は言ってみた。

「あの、大和さん、犯人も捕まったこと
ですし、私、そろそろ裏のアパートに… 」

だけど、大和さんは急に表情を変えて、

「由里子はここを出て行きたいの?」

と不機嫌に迫る。

「いえ、出て行きたいとかではなく、
私は言ってみれば、一時的に保護して
もらっただけですから、必要がなくなれば
出て行くのは礼儀かな と思うんですが… 」

私は伺うように上目遣いで言ってみるが、

「ダメ。
由里子はかわいいんだから、また同じような
奴が現れないとは限らないだろ。
自転車通勤は解禁したんだから、これ以上は
譲れない。」

と取り付く島がない。

いやいや、私をかわいいとおっしゃってくださるのは、大和さんだけなんですが。

「じゃあ、まだ私がここにいても、
ご迷惑じゃありませんか?」

「当たり前だろ。
由里子はずっとここにいるの。」

大和さんはぎゅっと私を抱きしめてくれる。

それが心地良くて、幸せで…

だから、

「はい。」

と答えた私は、事件が解決した今も大和さんのマンションにいる。


ちなみに、あの事件以来、大和さんは私のことを「由里子さん」ではなく「由里子」と呼び捨てにするようになった。


なぜだろう。
普通、人から呼び捨てにされると不快になると思うんだけど、大和さんに呼び捨てにされると、なんだか嬉しくなる。

自分が、大和さんのものになったような不思議な感覚。