溢れそうになる涙を堪えて、トイレまで行く。

うっ…

私はトイレで声を殺して泣いた。

分かってた。
分かってたけど、信じたかった。

出会ってまだほんのひと月足らず。

好きになっちゃダメだって分かってたのに。

いつのまにこんなに好きになってたんだろう。

あんな素敵な人が、私なんかを好きになるはずないのに。



いい夢を見たと思おう。

私には現実になるはずのない素敵な夢。

さぁ! 笑って席に戻ろう。

私が、軽く化粧を直して席に戻ろうとすると、今度は優美がやってきた。

「あの人はやめておきなさい。
本気なわけないじゃない。
遊ばれて捨てられるのがオチよ。」

優美はそれだけ言って個室へと向かう。

分かってる。
そんなことは、ちゃんと分かってるわよ。

私は、またこぼれそうになる涙を堪えて、頬を両手でパン!と叩くと、その場を後にして席へと戻った。

席に戻ると、宮原さんが心配そうに私を見る。

「由里子さん、大丈夫?」

「はい。」

由里子さん、大丈夫?
真実を知っても大丈夫?
騙しててごめんね。

そう言われてる気がした。

私は、愛想笑いを顔に貼り付けて、食事を最後まで終えた。


宮原さんは優美を送り届けると、私に助手席に来るように言ったけれど、私は動かなかった。

もう、宮原さんの隣にいることが怖くて仕方ない。

宮原さんに真実を告げられるのが、こんなに怖いなんて。

だったら、あの時、不審者に襲われた時、放っておいて欲しかった。

そしたら、こんなに好きにならずに済んだのに。

こんなに辛い思いをしなくて済んだのに。