「あの…… 、どうぞ。」

そう声を掛けられて、顔を上げると、右後ろからそっとハンカチが差し出されていた。

何?

ハンカチの意味が分からず、首を傾げると、彼は私の頬にそっとそのハンカチを押し当てた。

その時、初めて、私は自分が涙を流している事に気付いた。

「あ、すみません。」

私は我に返って、慌てて一歩後ずさると、彼は困ったように微笑んだ。

「いえ、お気持ちはよく分かりますから、
気になさらないでください。
僕も、今日、このニュースを聞いた時には、
同じ気持ちでしたから。」

彼は、私が下がったことで宙に浮いたハンカチとその手を、そっと下ろした。

「あっ… 」

私は、慌ててそのハンカチを手に取る。

「これは、洗ってお返ししますから。」

ハンカチには、私の涙もファンデーションも付いてしまっている。

「いえ、そこまでしていただかなくても。」

男性は優しく微笑んで遠慮するが、それでは私の気が収まらない。

「いえ、声を掛けていただいて、
助かりました。
ぜひ、洗うくらいの事はさせてください。」

「そうですか?」

私は手を緩めた男性からハンカチを受け取り、頭を下げた。