息を切らして床を見ていた視界に、歩み寄ってきた革靴が目に入り、顔を上げた。

「宮原さん… 」

「由里子さん、どうしました?」

知り合いに会って、それまでの恐怖から解放され、その場にへたり込むと、とめどなく涙が溢れた。

宮原さんは、一緒にしゃがんで、しゃくりあげる私の肩をそっと抱いて、落ち着かせるように腕をさすってくれる。

5分ほどそうして、ようやく少し落ち着きを取り戻し、私は、先ほどの出来事をたどたどしく説明する。

すると、宮原さんは、警察に通報してくれて、その後のいろいろな事にも一緒に立ち会ってくれた。

「待ち伏せをされたということは、住所も
特定されていると考えた方がいいでしょう。
できれば、すぐにも転居をお勧めしますが、
当面、というか、せめて今夜だけでも
ご実家に帰るなり、お友達の家に泊めて
もらうなりして、避難された方がいいと
思います。」

お巡りさんはそんな事を言うが、そうは言われても…

「由里子さん、ご実家は?」

「この近くに住んでたんですが、私の大学
卒業を待って、母は単身赴任の父の所へ
行ってしまったので、今はもうないんです。
友人といっても、今日お願いして泊めて
もらえるほど親しくしている人も
いませんし。」

困ったな…
どうしよう。

「じゃあ、うちにいらしてください。」

宮原さんがさも当然であるかのように言う。

いやいやいや…

「そんなご迷惑をお掛けするわけには
いきませんから。
大丈夫です。
とりあえず、ホテルでも探して、その後は、
ウィークリーとかマンスリーのアパートを
探しますから。」

私は慌てて断った。

だけど、宮原さんは納得してくれなくて…

「それじゃ、結局、一人暮らしでしょ?
今回は大丈夫だったけど、犯人はまだ
捕まってないんだ。
今度は家に侵入してこないとも限らないし。
うちに来たら、俺が全力で守るから。
犯人だって、男がいる部屋には侵入しにくい
と思うし。」